今週の市場は踊り場の気配も出ていた。ワクチン展開の進展、それに伴う景気回復、そして、企業業績回復といった、いずれもハッピーシナリオを市場は完全に織り込んでいる。あとは織り込んだシナリオを点検しつつ、次の展開を探っていたのかもしれない。しかし、週末の米雇用統計がショッキングな内容となったことで、市場には動揺が走った。非農業部門雇用者数(NFP)は26.6万人増となったが、市場の予想コンセンサスは100万人増で、なかには100万人を大きく超えるとの強気な見方まで出ていた。 市場の見解を総合すると、他の指標も鑑みてパンデミックからの景気回復トレンドの鈍化を示す内容ではないとの意見が多い。ただ一方で、少なくとも利上げはおろか、資産購入ペース縮小など、市場が描いていたFRBの早期出口戦略着手への期待は大きく後退させる内容との見解も多く見受けられる。 ただ、ショッキングな米雇用統計だったもののインフレ期待は逆に高まっている。米インフレ期待を示す米10年債のブレークイーブン・レートは一時2.50%まで上昇し、2013年以来の高水準となった。今回の弱い米雇用統計でFRBの出口戦略着手への期待が後退し、バイデン大統領のインフラ投資策への期待感も高まる。インフレを上昇させる環境が長引くと見ているのかもしれない。 ドル円については、ハッピーシナリオを1-3月に織り込み、一時111円手前まで買い戻された。ただ、FRBがインフレ上昇は一時的として慎重姿勢を固辞していることから、1-3月に織り込み過ぎた感も出て、4月に一時107円台まで調整した。その調整も4月一杯で終了し、5月に入って次の局面を探っている状況にも見える。 ちょうど5月ということもあり、市場では「セルインメイ(Sell in may)」という言葉をよく耳にする。株式市場の古くからの格言で、「5月に売って、9月のセントレジャー・デー(第2土曜日)まで戻ってくるな」といった内容だ。セント・レジャー・デーは英国の競馬のセントレジャー・ステークスが開催される日。意味合いとしては、「年初から春にかけて株価が上昇し、夏休みで市場が枯れる前に利食って夏休みを豪華に過ごし、秋に戻ってくる」といったところであろうか。 その通りなら贅沢な1年だが、今年の状況は意外にマッチしているのかもしれない。米株は景気回復期待から年初からも上昇を続け、最高値を更新している。利食いが出てもおかしくはない。また、パンデミックで散々な目に遭った米クルーズ業界だが、夏の再開にむけて予約がかなり増加しているようだ。そのほかのラグジュアリー業界も同様。もっとも富裕層の方々の話なので、個人的には関係ないが。 一方、今年は「バイインメイ」だと主張する仕事熱心な方々もいる。「セルインメイ」で利食うなら、そこは拾うチャンスと見ているようだ。確かに、回復の度合いや株価の織り込み度合いは別にして、少なくとも景気後退の芽は当面シナリオにのぼりそうにはない。ある意味、頷ける主張ではある。 ただし、ハッピーシナリオであれば、いまの為替市場はドル売りの反応であろう。一方、日銀だけは出口戦略が全く見えない中で、リスク選好の円安シナリオも想定される。ドル安・円安で、ドル円はどうしてよいのかわからないのも実情かもしれない。 さて来週だが、ドル円は週末の米雇用統計を受け108円台に値を落とし21日線も下回った。再び下値警戒感が高める中で、来週以降再び107円台を試しに行くか注目される。しかし、米国債利回りは下げておらず、米株も堅調なことから、下値攻めをするには躊躇もありそうだ。来週は108円台から109円台半ばでの狭い範囲の上下動を想定する。想定レンジは108.00円~109.50円。スタンスは「やや弱気」で変わらず。 ()は前週 ◆ドル円(USD/JPY) 中期 下げトレンド継続 短期 ↑↑(↑) ◆ユーロ円(EUR/JPY) 中期 上げトレンド継続 短期 ↑↑(↑) ◆ポンド円(GBP/JPY) 中期 中立継続 短期 ↑(→) ◆豪ドル円(AUD/JPY) 中期 中立継続 短期 ↑(→) ◆ユーロドル(EUR/USD) 中期 上げトレンド継続 短期 ↑↑(↑↑) ◆ポンドドル(GBP/USD) 中期 上げトレンド継続 短期 ↑(↑) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 次回の配信は5月29日(土)の午前を予定しています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
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