S&P500 月例レポート ― 現実を突き付けたジャクソンホール演説 (3) ―

配信元:株探
著者:Kabutan
●バイデン大統領と政府高官

 ○中国政府の反発にもかかわらず、米国のペロシ下院議長が台湾を訪問しました(滞在時間は24時間)。この訪問を受け、中国政府は軍事演習を実施しましたが、市場は一連の動きには無反応でした。

 ○上院民主党はクリーンエネルギーと気候変動プログラムの財源となるインフレ削減法案(3690億ドル)と、医療保険制度改革法(オバマケア)を延長するための財源(640億ドル)について合意しました。最低法人税率15%の導入(例外規定あり)、高齢者向け公的医療保険「メディケア」による処方薬の薬価見直し交渉の認可、内国歳入庁(IRS)による徴税執行の強化を目指した予算の増額、1%の自社株買い課税などが盛り込まれています(これらの措置により7390億ドルの歳入が確保され、財政赤字が3000億ドル削減される見通し)。8月中に同法案は上下両院で可決され、バイデン大統領の署名を経て成立しました。

 ○バイデン大統領は学生ローンの返済を1人当たり最大で2万ドル免除する大統領令を発令しました。対象となるのは年収が12万5000ドル以下の借り手(4300万人が恩恵を受ける見通し)で、政府コストは3290億ドルに達する見通しです。

●石油とガス

 ○OPECプラスの閣僚級会合は、2022年9月から日量10万バレルの増産を行うことで合意しました。会合に先立ち、米国は早期の増産を要請しましたが、結果はこのような小幅増産(現在の生産量は日量約2800万バレル)となりました。

 ○原油価格の値動きは大きく、7月末の1バレル=98.43ドルから8月末は同88.87ドルに下落しました。6月末は同105.97ドル、5月末は同115.12ドルでした(今年に入ってから一時同130.50ドルまで上昇しました)。年初来の上昇率は17.9%となりました(2021年末は同75.40ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は1ガロン=3.938ドルとなり、年初来で16.7%上昇しています(7月末は同4.440ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末と比較すると、原油価格は83.5%上昇(2020年末は同48.42ドル)、ガソリン価格は69.0%上昇(2020年末は同2.330ドル)しています。

  ⇒EIAは2021年のガソリン価格の内訳について、53.6%が原油、16.4%が連邦税および州税、15.6%が販売・マーケティング費、そして14.4%が精製コストと利益だと説明しています。

●新型コロナウイルスに加えて今度はサル痘も

 ○米国はサル痘について公衆衛生上の緊急事態であると宣言しました。感染拡大は続いており、ワクチン不足に対して国民から批判の声が上がっています。米疾病対策センター(CDC)によると、現時点で米国内では1万8417人の感染が確認されています(7月時点では6617人)。世界全体の感染者数は99(同87)カ国で4万9974人(同2万6206人)に達しています。

 ○米国では「BA.4」や「BA.5」といったオミクロン派生型にも対応する新型コロナワクチンの接種が9月にも開始される見通しです。

 ○新型コロナウイルス関連データ:

  ⇒世界全体のワクチン接種回数は126億回となりました(7月末は123億回)。

  米国は現時点で:

    →人口の78.3%(同77.8%)が少なくとも1回はワクチンを接種したことになり、人口の66.8%(同66.4%)が全ての接種を終えました。人口の32.3%(同31.8%)がブースター接種を受けました。

    →新規感染者数の7日間平均は8月末時点で9万428人となり、7月末時点の12万7022人から減少しました。1日当たりの新規感染者数は2022年1月11日に141万7493人に達しました(2021年11月末時点は8万3120人)。また、死者数の7日間平均は473人に増加しました(7月末時点は439人)。

    →米国の新型コロナウイルスによる累計死者数は104万1000人となりました(7月末時点は102万9000人)。

●各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

 ○イングランド銀行(BoE)は政策金利を0.50%引き上げ(1977年以降で最大の引き上げ幅)、1.25%から1.75%としました。また、2022年第4四半期に英国経済は厳しい景気後退に陥り、(現時点で40年ぶりとなる9.4%まで上昇している)インフレ率は13%に達し、2023年にかけて高止まりが続くことが見込まれるとの見通しを示しました。

 ○中国人民銀行は予想に反して短期流動性の供給目的でリバースレポ金利を2.1%から2%に引き下げました。また、1年物貸出金利も2.85%から2.75%に引き下げました。

 ○7月のFOMC議事録はインフレ率が「不快なほど高い水準」にあると指摘し、インフレを抑えこむために利上げ継続にコミットしていくことを表明していました。

 ○カンザスシティ連銀主催のジャクソンホールでの年次シンポジウムが開催され、パウエルFRB議長は物価の安定を取り戻す(インフレを抑え込む)という目標に全力で取り組む姿勢を明らかにしました。また、今後の利上げは経済データ次第であり、FRBは利上げが経済に痛みを与えることは理解しているが、行動を怠れば米国経済はさらに深刻な打撃を被ることになると発言しました。また、議長はインフレ率の低下を示す幾つかの証拠を示したものの、金融政策の変更にはより多くの証拠が必要になると述べました。

  ⇒その結果、ハト派スタンスを期待していた市場の見方は一転し、9月20-21日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%(0.50%を予想する向きもなくはありませんが、一方で1.00%という見方も一部にあります)、11月に0.50%、そして(現時点では願わくば)12月に0.25%の利上げが行われるとの見方が強まりました。

●企業業績

 ○8月に株価変動の最大の要因となったのは、企業の決算およびガイダンスの発表でした。現時点で492銘柄が決算発表を終え、369銘柄で営業利益が予想を上回り(75.0%)、100銘柄で予想を下回りました。また、売上高では、491銘柄中349銘柄(71.1%)で予想を上回りました。

  ⇒2022年第2四半期は前期比4.8%の減益(第1四半期は過去最高となった2021年第4四半期から13.0%減益)、前年同期(2021年第2四半期)比9.8%の減益が見込まれます。売上高は前期比2.3%増、前年同期比12.2%増となり、過去最高を更新する見込みです。

  ⇒2022年通年の利益は前年比0.9%増と、過去最高を再度更新する見通しで、2022年の予想株価収益率(PER)は18.8倍となっています。

  ⇒2023年の利益は同14.7%増が見込まれており、2023年の予想PERは16.4倍となっています。

  ⇒2022年第2四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は、2021年第1四半期の16.6%から20.0%に上昇しました(2021年第2四半期は5.4%、2020年第2四半期は17.8%、2019年第2四半期は24.2%)。

  ⇒2022年第2四半期には、企業によるコスト上昇の転嫁はあったものの、営業利益率は10.89%となり、前四半期の11.93%から低下しました(1993年以降の平均は8.24%、最高は2021年第2四半期の13.54%)。

●個別銘柄

 ○中国の電子商取引大手アリババは、米国の証券取引所への上場を維持するために米国の規制を遵守すると述べました。米証券取引委員会(SEC)は8月29日に、米国で上場廃止のリスクがある銘柄のリストにアリババを指定しました。

 ○オンライン証券会社のロビンフッド・マーケッツは業績が予想を下回ったことを受けて、23%の人員削減を行うと発表しました(4月には9%削減しました)。

 ○アップルは、iPhone 14の発表会(対面でのイベント)を2022年9月7日に設定しました。4つのモデルのうち1つは既存の最大サイズより大きくなるとみられています。

 ○また、アップルは2022年9月5日からオフィス出社を義務付ける働き方(週2?3日の出社が必要)に切り換え、パンデミック対応の柔軟な方針を終了させる予定ですが、従業員からは反発も出ています。

 ○アップルは新型iPhone14の生産を、中国に加えてインドでも開始します。

 ○ヘルスケア企業のモデルナは新型コロナウイルスワクチンに関する自社の特許を侵害したとして、ファイザーを提訴しました。

 ○生活用品小売企業のベッド・バス&ビヨンドは、現金調達のための新株発行、150店舗の閉鎖、従業員の削減を行うと発表しました。

 ○スナップチャットを提供するソーシャルメディア企業スナップは、コスト削減のため、従業員(6400人)の20%をレイオフすることを明らかにしました。

●注目点

 ○アップルは総額55億ドルの社債(最長年限40年)を発行しました。調達資金の一部は自社株買いに使用されます。

 ○電気自動車メーカーのテスラは1対3の株式分割を実施しました。アルファベットは7月に1対20の株式分割、アマゾン・ドット・コムは6月に1対20の株式分割をそれぞれ実施しています。

 ○イーロン・マスク氏はテスラ株792万株(約70億ドル相当)を売却しました。この売却はツイッターの買収資金を調達するため、という憶測が流れていますが、マスク氏はそれを否定しようとしています。

 ○カリフォルニア州は、2035年以降に販売される全ての新車(乗用車、SUV、小型トラック)をゼロ・エミッション(排出物ゼロ)にすることを義務付け、事実上、ガソリン車を禁止することを決議しました。また、カリフォルニア州は中間目標を設定し、ゼロ・エミッション車の割合を2026年までに35%、2030年までに68%にすることを求めています。

 ○米中両国は、米国に上場している中国企業の監査を米当局に許可することで合意し、中国企業が米国で上場廃止となるリスクを回避しました。

 ○ロシアは欧州向けのガスパイプライン「ノルドストリーム」を「メンテナンス」のため停止(3日間の予定)しました。多くはこれを、欧州に対してウクライナへの支援を制限するよう警告を発したものと受け止めています。ロシアはこれに先立ち、ノルドストリーム・パイプラインによる供給量を輸送能力の20%に制限しました(現在も継続中)。

※「現実を突き付けたジャクソンホール演説 (4)」へ続く

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