コモディティレポート(金)

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
 【利下げ着手期待が高まるなか注目される米雇用統計と中国の金需要】
 NY金8月限は2350ドルを上値抵抗にしてのこう着状態が続いていたが3日に大
きく値位置を切り上げ、6月21日以来の水準まで上伸した。
 金価格の上昇をもたらしたのは、5月の米製造業新規受注高、6月のISM米非製造
業景気指数だ。今回発表された5月製造業新規受注では−0.5%と事前予想の+0.
3%を大幅に下回る結果となったほか、6月ISM非製造業景況指数は48.8と事前
予想の52.5を下回ったばかりか、事前予想の50以下まで下落した。
 弱気な米経済指標は、高金利環境の長期化が米経済活動のネガティブな影響を与える
との懸念を強めると同時に利下げ着手期待や安全資産としての金需要の増加期待を高め
たと見られる。
 NY金がさらに上を目指していくためには一段のドル安が必要だ。NY金がもち合っ
ていたのは、ディスインフレ傾向が見受けられながらも米雇用情勢は底堅さを維持しこ
れが賃金の上昇を支えていたため、連邦準備理事会(FRB)が目標とする2%のイン
フレ率達成の見通しに不透明感が強かったからだ。
 5月の米消費者物価指数(CPI)では、総合CPIの前年同月比が事前予想の+
3.4%を下回る+3.3%となったうえ、食料とエネルギーを除くコアCPIも前月
の+3.6%、事前予想の+3.5%を下回る+3.4%となるなど、全体としてイン
フレは緩和傾向にあることが示された。
 しかし一方の賃金上昇率の前年同月比は4.1%を記録し、米連邦準備理事会(FR
B)が設定している2%というインフレ率達成にはまだ時間を要する可能性が高いこと
が示されている。
 賃金の上昇は雇用情勢の底堅さが背景にある。賃金上昇率が抑制されるためには雇用
情勢の軟化が必要となるが、今月2日に発表された米雇用動態調査(JOLTS)求人
件数では22万1000件増の814万件となり、減少となった前月から一転して増加
となった。この報告は米雇用情勢の底堅さを示したと認識され、その結果、利下げ着手
の道のりの遠さが意識させられたことは金市場にとっての重石となっていた。

 その一方でパウエルFRB議長はポルトガルで開催された欧州中央銀行(ECB)主
催の会合においてディスインフレ傾向が回復している、との発言を行っている。2日の
取引では米国の雇用情勢の底固さを示唆する雇用統計の発表がその影響を相殺したが、
同議長の発言は米雇用情勢が安定して軟化傾向を維持できれば利下げ着手に向かう可能
性が高まる可能性があることを意味している。
 5日に発表される6月雇用統計での非農業部門雇用者数の動向が目先の最大注目要因
となる。5月の雇用者数は予想を大幅に上回る増加となったが、引き続き増加傾向が示
されるようであれば、底固い雇用情勢が賃金の上昇を支えるとの予想を高めることにな
りそうだ。実際の発表を受けて市場がどのような反応を見せるかが注目される。
 その一方で注目されるのが中国の金需要だ。6月7日の発表では5月の中国人民銀行
の5月時点における金保有高は前月と同量の7280万トロイオンスだったことが明ら
かとなった。中国人民銀行は1年半にわたって金の購入を続けてきていたが、2022
年10月以来初めて金の購入が見送られたことになる。
 中国人民銀行が金購入を行ってきたのは、米国の高金利環境によってもたらされたド
ル高により減少が促された中国政府保有のドル建て資産の価値防衛および国内の景気不
安を背景とした安全資産の需要の増加が背景だ。外貨準備におけるドル保有高の引き下
げを図る手段としても金が買い進まれていた。
 中国による金の大量購入の動きが今後も引き続き停滞するようであれば、同国による
脱ドルの動きも一段落したとみられ、金市場においてはこれまで金価格を押し上げてき
た要因が消化されることになる。米国の雇用統計と同時に、中国人民銀行の金購入の動
向にも注目が必要となっている。
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