【米大幅高に転じるも依然としてインフレ加速化観測が重石か】 NY金12月限は米大統領選挙の翌日11月6日は2752.6ドルで寄り付いた。 その後、下落基調となり、14日に9月12日以来の安値となる2541.6ドルまで 下落。その後は地政学リスクなどから反発に転じている。 米大統領選で中国からの輸入品に対する関税を60%、それ以外の国からの輸入に対 しても最大で20%の関税引き上げを公約として掲げるトランプ氏が勝利して以降、高 まるインフレ率の上昇観測やドル買い、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測の後 退がNY金市場の弱材料となってきた。 黒海地域ではウクライナが米国製長距離ミサイルでの初攻撃を実施する一方、ロシア では核兵器の使用基準の引き下げが承認されるなど、ウクライナ情勢が緊迫化している ことで安全資産としての需要が意識されていることが買い支援要因となっている。 10月下旬に890トン台に達しながらもその後、縮小傾向にあったSPDRの金E TF残高も11月14日に867.37トンまで縮小した後は増加に転じており19日 に872.23トンに達しており、投資用としての金需要も回復傾向にある。 今月前半の大幅安の反動もあり、NY金は買い戻しが見込まれるが2700ドルを超 えた後も史上最高値を更新続けた10月半ばから10月末にかけて上伸の勢いが再び見 られる可能性は低いのではないだろうか。 その根拠はトランプ政権誕生後のインフレ率上昇が警戒されるからだ。トランプ政権 誕生後、公約通りの関税引き上げが実施された場合、米国外から輸入されるモノの価格 は直接的に上昇することが予想される。 米国や欧州では中国産電気自動車への関税引き上げなどを始め、貿易における中国へ の依存度を引き下げるための取り組みが進められており、Global Trade Atlas(グローバルトレードアトラス)の2023年度の統計によると、オラン ダ、米国、ドイツなどの欧米諸国で輸入総額において中国が占める比率が低下してい た。なかでも米国の対中輸入額は前年に比べて20.3%もの減少を記録しており、米 国では脱中国の動きが進んでいた様子が示されている。 トランプ氏が大統領に就任した後はその動きが加速化することが予想されるが、その 結果として直接的にモノの価格が上昇すると同時に、中国製を始めとする輸入品の価格 上昇によってもたらされると予想される供給量の減少を国内生産によってまかなう可能 性も見込まれる。 そうなれば米国内の雇用情勢は引き締まることが予想されるが、同時に移民排斥の動 きが見られるようであれば、現在軟化傾向にある米雇用情勢が再び大幅に引き締まる可 能性も浮上している。 一方の為替面においても米国の関税引き上げ措置により米貿易赤字額が縮小に向かう 一方、米国を主要貿易相手国とし対米輸出において黒字が生じている国々にとっては貿 易収支が悪化に向かう可能性がある。そうなればそれらの国々の通貨が対ドルで下落す る可能性が高まることになりそうだ。 米経済は良好を維持している点も追加利下げの障壁となり得る。10月の米消費者物 価指数(CPI),生産者物価指数(PP)は共に伸びが加速化していることが明らか となったが、同時に個人消費も旺盛で賃金の上昇が消費を支えると同時に、消費者物価 指数の下げ渋りを促している様子も窺われる。 20日のNY金12月限は20ドルを超える上げ幅を記録し2650ドル台を回復し た。崩れた後の反動高場面が続いているものの、NY金市場を巡る環境は必ずしも強気 とは言えない。それだけにここから先の上げ余地は限られてくることになりそうだ。 MINKABU PRESS
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