コモディティレポート(金)

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
【NY金は政治要因を受け高下が続くも底堅く推移】
 NY金期近6月限は5月7日に3448.2ドルを付け4月22日以来の高値水準に
達した。その後、急落となり、14日は3170.7ドルと4月10日以来の水準まで
下落した。終値は3180.7ドルと3200ドルを大幅に割り込んだ。
 NY金の急落は10〜11日にかけて行われた米中通商協議において、90日間と限
られた期間ながら、米国と中国が共にお互いの国からの輸入に対する関税を115%引
き下げることで合意に至り、米中貿易摩擦に対する懸念が後退したことが背景となって
いる。
 トランプ氏が大統領に就任して以降、米政権は様々な分野や国・地域を対象に輸入関
税の引き上げ政策を発表しているが、お互いに100%を上回る輸入関税を設定し米中
間の貿易戦争に対する懸念が強まり、安全資産を求める動きを活発化させる要因となっ
ていた。
 高関税が大きく引き下げられたことを受け、米国では懸念されていたスタグフレーシ
ョンの発生予想が修正されている。JPモルガン・チェースは米景気は2025年後半
に景気後退に陥る、との見方から不況なしへと変更した。バークレーズも25年後半の
不況は回避とした。ゴールドマン・サックスも今後1年間の米景気後退の可能性をこれ
までより10%引き下げた35%としている。
 これらの米スタグフレーション発生の可能性を修正する動きもNY金市場にとっては
重石になっており、これまで3500ドルと歴史的な高水準まで値を切り上げた後の反
動もあって、目先は引き続き大きく高下することになりそうだ。
 ただ、金に対する投資意欲は根強く見られる可能性がある。米中の輸入関税が大きく
引き下げられたうえ、多くの分野に対する米国の輸入関税引き上げを受け、不確実性に
関しては収束しているものの、リスクそのものが解消されたわけではないからだ。
 米中貿易摩擦に関しては、現在のお互いに115%引き下げる案は暫定的な措置であ
り、90日間という期間が設けられている。米国では中間選挙が、中国では景気刺激策
の必要性があることため、米中間の緊張が再び高まる可能性は低いと見られが、今後の
交渉次第では再び関税が引き上げられる可能性が残されている。
 また、115%と大幅に引き下げられたとはいえ、米国の中国からの輸入に対する関
税は30%と依然として高率であり、これが今後の物価に影響を与えることが予想され
る。

 なお、4月米消費者物価指数(CPI)の前年同月比は総合が+2.3%で前月の+
2.4%を下回ったうえ、変動が激しいエネルギーと食料を除いたコアCPIの前年同
月比は+2.8%だった。また、エネルギーを除いたサービスの前年同月比は3年3か
月ぶりの4%割れとなる+3.7%となっており、インフレは低下しつつある様子が示
されている。
 現時点でのインフレ率であれば、米連邦準備理事会(FRB)も利下げ着手の根拠が
増えることになるが、米トランプ政権による関税政策が活発化したのは3月以降であ
り、それ以降に米国外から輸入されるものに関税が賦課されるという流れから、米関税
政策が物価に与える影響が明らかになってくるのはこれからと見られる。
 物価の上昇傾向が強まり、同時に米雇用情勢が軟化するなどの動きが見られるようで
あれば、米景気に対する懸念が再燃する可能性がある。
 また、米国内の将来的なインフレ上昇の可能性に加え、公的機関の金指向の高まりも
金価格を支える要因になってくると見られる。
 米トランプ政権により次々と関税政策が発表されるなかで、米景気に対する懸念が高
まり米国初の資産離れの動きが見られるなか、万国共通の安全資産である金には旺盛な
需要が向けられたが、このドル離れの動きは公的機関でも進んでいる。
 ドルを外貨準備として保有することは、米国でのリスク発生時に資産が増減するとい
うリスクを抱えることになる。また、米トランプ政権の関税政策の目的は大規模な赤字
縮小にあるが、同時に赤字是正のためにドル安指向が強まるようであれば、外貨準備高
の資産価値も縮小することになる。そのため、公的機関からは資産価値防衛のための金
需要が根強く見られることが予想される。
 目先は政治要因を手掛かりにして大きく高下する場面が続く可能性があるが、大幅に
引き下げられたとはいえ米国の中国からの輸入に対する30%の関税を始め、米関税政
策の影響は今後の米国内物価に反映されてくると予想されるうえ、米国のドル安指向の
可能性や公的機関による金需要など、金を求める根拠が見受けられるだけに、NY金は
底堅い足取りを維持するのではないだろうか。
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