コモディティレポート(金)

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
【NY金は根強い米景気見通し不透明感を受け高止まりか】
 NY金期近6月限は終値ベースで3300ドル台を回復した21日以降は3300ド
ルを支持線にしての高下が続いている。
 米トランプ政権はEUからの輸入品に対する関税を6月1日から50%に引き上げる
と発表したものの、その後50%の輸入関税引き上げを7月9日に延期することを改め
て発表。これにより米国とEUとの貿易摩擦に対する警戒感は和らいでいるものの、同
時に朝令暮改の同政権の姿勢は米政権の政策に対する信頼性は低下している。
 米政権への信頼性の低下は米国発の資産離れの動きとなって現れ、米長期債の金利が
上昇する動きを見せたが、ドル売りも根強く見られている。
 27日のNY金は5月のコンファレンスボード消費者信頼感指数が98.0となり、
事前予想の87.1を大きく上回ったことがドルを買い戻す動きを誘発したことを受け
て軟化した。28日の終値で3300ドル台は辛うじて維持しており、下値の強さを窺
わせている。
 米関税政策に対する懸念が強い。今後は米国の物価上昇も本格化すると見られる。米
中間の輸入関税は相互に90日間は115%引き下げることで合意しているが、全世界
一律の10%の相互関税に加え、中国からの輸入関税は30%に設定されており、輸入
物価はトランプ関税以前よりも上昇していることが上昇要因。
 米政権による関税引き上げが本格化したのは第1四半期の終盤以降となる。これまで
のところ、輸入物価の上昇はサービス手数料の引き下げによって相殺されている。第2
四半期にはそれまでの関税引き上げが小売価格に転嫁され、米国内の物価の上昇が促さ
れる可能性がある。
 関税引き上げ分が小売価格に転嫁されるようであればインフレの加速化が促される。
一方で、関税引き上げ分が転嫁されずサービス手数料の引き下げという形で相殺され続
けるようであれば、賃金上昇率の鈍化に繋がると見られる。
 小売価格への転嫁が進み物価が上昇した場合には賃金の上昇ペースが物価の上昇ペー
スに追い付かなければ購買力が低下し、またサービス手数料が引き下げられた状態が続
いた場合でも購買力の低下につながることになる。
 5月時点での消費信頼感指数は高水準にあることが示されたが、これまでのところ輸
入物価の上昇は小売価格に反映されていない一因がサービス手数料の引き下げであり、
その結果として賃金が伸び悩む可能性があることを考慮すると、今後の米景気には見通
しに不透明感が強い。
 米国の国内総生産(GDP)は約7割が個人消費で占められていることを考慮する
と、物価高が米経済成長を抑制される可能性が高く、米経済に対する過度の懸念は和ら
いだとはいえ、米景気見通し不透明感は今後もくすぶり続けると予想される。
 なお、5月6〜7日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨でも
今後の物価の上昇を参加者のほぼ全員が懸念していることが明らかになった。失業率の
上昇に対する警戒感が明らかとされたが、パウエル連邦準備理事会(FRB)議長はF
RBは利下げに対しては慎重な姿勢を示している。同時に今後の米景気後退に対する懸
念が強く、25〜26年の経済成長率も引き下げられている。
 米景気後退に対する懸念が払しょくできないなか、NY金に対しては引き続き安全資
産を求める動きが見られると予想される。
 SPDRの金ETF残高も時おり920トンを割り込むまで減少はあるが、920ト
ン台を回復しているうえ、28日は925トン台と5月15日以来の水準まで回復して
おり、需要の底堅さを示唆している。
 米トランプ政権の不確実性は様々な分野に及んでいることも米政権の見通し不透明感
を強める要因になっている。
 トランプ政権はハーバード大学に対しては留学生の受け入れ認証取り消しを通達した
うえ、米政権とハーバード大学の契約を打ち切る方針を示している。
 米トランプ政権がハーバード大学に対する圧力を強めることは同大学から米国外へと
人的資源の流出を促すうえ、多様性を容認する動きを低下させる可能性もある。同時に
思想や言論の自由に圧力を与えるメッセージともなりかねず、今後も混乱が続く可能性
が高い。
 米政策を巡る混乱は今後も継続すると見られる中、見通し不透明感から安全資産を求
める動きは根強く見られ、NY金は引き続き3300ドル前後の値位置を維持する展開
が見込まれる。
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