金はレンジ形成、利食い売りも米財政不安などが下支え

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
 金は米中の貿易合意を受けて利食い売りが出たが、米国の景気減速懸念や財政不安が
下支えとなった。トランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウムに課す追加関税を2倍の50
%に引き上げると、5月8日以来の高値3391ドルを付けた。米中の関税引き上げで
貿易戦争に対する懸念が高まったが、5月10〜11日にスイスのジュネーブで行われ
た閣僚級協議で相互に発動した関税率を115%ポイント引き下げることで合意し、世
界経済の先行き懸念が後退した。関税上乗せ分の90日間の停止、経済・貿易関係に関
する協議メカニズムの構築も打ち出した。ただ米国と各国の貿易交渉が続いたが、合意
に達したのは英国のみで包括的な通商協定でなかったことから、先行き懸念が残った。
ベセント米財務長官は29日、中国との貿易交渉はやや行き詰まっているとの見方を示
した。トランプ米大統領は中国が合意に違反したとし、厳しい措置を取る可能性を示し
た。米財務長官は1日、米大統領と中国の習国家主席が近く電話会談を行うとしてお
り、合意に達するのかどうかを確認したい。一方、米国際貿易裁判所は、米大統領の関
税措置を違法と判断した。米政権は直ちに控訴し、米連邦高裁は米大統領の関税措置を
違法とした判断について、一時的な執行の差し止めを命じた。米最高裁で審理されると
みられており、どのような判断が下されるかも当面の焦点である。ウォール街でTAC
Oトレードという造語が広がっている。Trump Always Chickens
Out(トランプはいつもビビッて引き下がる)の略語で、トランプ米大統領の行動パ
ターンを見透かして皮肉ったものである。貿易交渉で各国の交渉担当者がより強気の姿
勢で臨んでいることも協議が進まない要因となっている。
 米格付け会社ムーディーズは5月16日、米国債の信用格付けを最上位の「Aaa」
から「Aa1」に1段階引き下げた。米国の債務と財政赤字の急増が背景にある。フィ
ッチ・レーティングスとS&Pグローバル・レーティングが既に引き下げており、影響
は限定的とみられたが、米20年債入札で需要の弱さが示されると、20年債利回りは
一時5.125%と2023年11月初旬以来の高水準となり、財政不安が高まった。
米大統領の大型減税を盛り込んだ法案が下院で可決されたが、議会予算局が今後10年
間で連邦債務が約3兆8000億ドル増加する見通しを示したことも不安を高める要因
となった。米国売りの動きが強まると、金が安全資産として買われるとみられている。
【米FOMCでインフレと雇用悪化を警戒】
 5月6〜7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金
利の誘導目標を4.25〜4.50%に据え置いた。インフレと失業率の上昇リスクが
高まっているとしたことに加え、トランプ米政権の関税措置で経済見通しが不透明との
見方を示した。4月の米消費者物価指数(CPI)は前年比2.3%上昇した。伸びは
前月の2.4%上昇から鈍化し、2021年2月以来の低水準となった。米小売売上高
は前月比0.1%増加した。米関税措置発表前にみられた駆け込み需要が一服し、伸び
は前月の1.7%増加から減速した。米製造業生産指数は前月比0.4%低下した。事
前予想は0.2%低下だった。自動車生産の急激な落ち込みを受けて予想以上に低下し
た。5月の米ISM製造業景況指数は48.5に低下し、6カ月ぶりの低水準となっ
た。事前予想の49.3を下回り、3カ月連続で低下した。関税の影響でサプライヤー
の納入に時間がかかっている。
【NY金先物市場でファンド筋の買い越しは拡大に転じる】
 世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、6月3日
に935.65トン(4月末944.26トン)となった。利食い売りが出て5月16
日に918.73トンまで減少したが、米国の財政不安などを受けて投資資金が戻っ
た。一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク
金先物市場でファンド筋の買い越しは5月27日時点で17万4184枚(前週16万
3981枚)となった。5月13日に16万1209枚まで縮小したのち、買い戻し主
導で拡大に転じた。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
*4日、Yahoo!ファイナンスに掲載された記事を再配信します。


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