【米政権の不確実性を受け高止まりも公的機関の需要停滞で勢いは乏しい】 NY金期近8月限は5月23日にかけて3400ドルに迫る3395.3ドルまで値 を伸ばした後に値位置を落としたが、3269.1ドルまで値を落とした後は再浮上し 6月2日に3400ドル台に到達。3日に反落に転じながらも3370ドル台を維持す るなど底意の強い動きが続いている。 金市場は依然として米トランプ政権による関税政策や米景気不安を主因として高下す る動きが続いている。米トランプ大統領は3月12日から25%に引き上げた鉄鋼・ア ルミの輸入関税を50%に引き上げ6月4日にはこの措置を発動している。 関税が鉄鋼・アルミのみにとどまるようであれば影響も限られるが、米トランプ政権 が今後、どの分野の関税引き上げに言及してくるか、見通しは不確実性が高い。 また、中国との通商協議に関しても2日の週内に米中間で通商協議が行われる可能性 についての言及が見られ米中間の米中貿易摩擦の緩和が期待されていた。しかし米トラ ンプ大統領は中国との交渉は困難とSNSに投稿しており、米トランプ大統領と習近平 国家主席との米中通商協議に対する期待感は後退している。 米関税政策が米国と他国の関係にネガティブな影響を与えていることは安全資産を求 める動きを支える要因だ。加えて、これまでの米トランプ政権による関税政策による影 響が米経済に浸透し始めていることも米経済の不安要因となり、根強い逃避買い需要が 見られている。 4月の米供給管理協会(ISM)非製造業総合指数は50を下回ったうえ、2024 年6月以来の低水準まで落ち込んでいることが明らかとなったが、原材料の価格上昇だ けが背景になっているわけではない。 トランプ政権による関税政策と調整や延期が繰り返し発表されていることを受けて見 通し不透明感が強まるなか、安心して今後の製造や発注の計画を立てることに対する抵 抗が強まっていることも示唆している。 今後も4月分以降の米経済指標の発表が続くが、これからの報告には米関税引き上げ 前に見られた駆け込み需要および駆け込み輸入が与えた影響は次第に減少していく一方 で、米関税引き上げやトランプ政権による政策の発表と調整という不確実性を受けて慎 重な姿勢を取らざるを得ない企業の動向が反映されると見られ、これが米経済に対する 懸念を強めることになりそうだ。 これまでのNY金市場は、トランプ政権の関税政策が米国内の物価上昇や雇用市場の 軟化を連想させるなか、安全資産を求める動きが刺激される、という流れのなかで価格 が押し上げられる動きが見られていた。この基本的な背景に変化が見られない限り、N Y金は高値圏を維持すると見られる。 その一方で再び一代の高値を更新するかどうかに関しては、公的機関による金需要が 停滞している可能性が浮上しているため不透明感が強い。 ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の発表によると4月の中央銀行による金 純購入量は12トンで前月より12%減少し、過去12か月間の平均28トンを下回っ ている。金価格の上昇による影響が大きいと見られると同時に23年6月以降、金を買 い越す動きが続くなかで、各中央銀行が外貨準備の中に含む金の割合に相当する量を既 に確保した可能性も見込まれる。 SPDRの金ETF残高は5月21日に919.88トンまで落ち込みながらも6月 4日時点では935.64トンを記録するなど、金に対する投資用需要は依然として旺 盛ながら、公的機関による金需要が根強いながらもこれまでに比べると停滞しているだ けに、再び一代の高値を目指すには勢いが乏しいと見られ、NY金8月限は3400ド ル前後での高下が続きそうだ。 MINKABU PRESS
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