コモディティレポート(金)

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
【雇用情勢軟化や弱気な経済指標を受けた米利下げ観測うけ高もみ継続】
 NY金12月限は7月下旬に3300ドル台前半まで値を落としていたが、8月に入
り地合いを引き締めて3400ドル台を回復。その後は3400ドル台での高下が続い
ている。
 米国と他諸国との間で通商協議が合意に至ったことは米国の関税政策の不確実性を後
退させ、安全資産としての需要を和らげたが、8月1日から相互関税の基礎部分10%
に加え、上乗せ分も発動されたことにより、米国の輸入物価の上昇やこれに伴うインフ
レの加速化が懸念されている。
 実際、米国の経済指標には弱気な内容が目立ち始めており、特に雇用統計が予想を大
幅に下回ったことが警戒される。米労働省が発表した7月の非農業部門雇用者数の増加
幅は事前予想の11万人を下回り7万3000人にとどまった。
 さらに注目されるのが5月分は前回発表の14万4000人から1万9000人へ、
6月は14万7000人から1万4000人へと大きく引き下げられた点だ。
 トランプ政権による関税の引き上げが4月から本格化した後も米雇用統計は底堅さを
保ってきたと考えられていたが、実際には関税引き上げ直後の5月から米雇用情勢は軟
化していたことが示されたことになる。
 特に今回雇用者数が増加していたのはは関税との関連性のない教育・医療が大部分を
占めるなど、米関税政策が米雇用情勢にも影響を与えている様子が示されている。
 パンデミック明けに米国のインフレが加速化した時には供給網の混乱を受けた供給不
足が物価の上昇を招きながらもコロナ後の人手不足のなか賃金が上昇した結果、物価の
上昇を増加する賃金が吸収することで更にインフレが加速化する、という流れが見られ
ていた。
 今回は米関税政策によって物価の上昇が見込まれているが、前回のインフレ時とは異
なり雇用情勢が軟化していることで賃金の上昇も期待できず、高まるインフレ圧力のな
か、米国内総生産(GDP)のうちの3分の2を占める個人消費が停滞するリスクが高
まっている。
 6月の米求人動向からはこれまで求人の増加をけん引してきた宿泊・飲食サービス業
の求人件数が大きく落ち込んでいるが、8月1日からの相互関税の本格発動が影響する
と見られるため、米雇用情勢の回復は期待し難い。
 また、ISM非製造業指数など他の米経済指標からも雇用の縮小傾向に加え、消費者
が支出に慎重な姿勢を強めている様子が示されている。
 弱気な内容の経済指標の発表が目立ち、雇用情勢の軟化傾向も明らかとなったこと
は、米連邦準備理事会(FRB)による利下げ観測を強めている。CMEのフェドウォ
ッチによると8月6日時点で9月公開市場委員会(FOMC)で利下げを見込む比率は
93.6%に達している。
 米関税政策を受けた米経済不安、そして大型減税を含んだ法案の成立を背景とする米
財政悪化に対する警戒感は安全資産を求める動きを引き続き刺激すると見られると同時
に、高まる9月利下げ観測も金市場にとって強気材料になっている。
 根強さを強める逃避買い需要と高まる米利下げの可能性を受けNY金12月限はに支
えられ、3400ドル台での高下を継続すると見られる。
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