第57回 「DX人材育成と人的資本経営、そしてESG」 ●企業で広がる「DX人材育成」 国内の労働人口の減少や事業のデジタル化、生成AI(人工知能)の普及などを背景に、近年、日本企業では全社的なデジタルリスキリングが進められています。なかでも「DX(デジタルトランスフォーメーション)人材」の育成は、人的資本経営の重要なテーマの一つとなっており、企業における育成の取り組みが急速に広がっています。 しかも、かつてのようなIT部門に特化した取り組みにとどまらず、現在では全社員を対象としたデジタルリテラシー教育をはじめ、データ分析や業務プロセス改革、AI活用の内製化など、能力開発の一環として行われているのです。 この「DX人材の育成」は単なる「IT研修」ではありません。「X(トランスフォーメーション)」の名のとおり、デジタルによってビジネスに変革を起こせる人材を育成し、企業の競争力の向上につながる組織能力を再構築するためのサステナブルな手段に位置づけられているのです。 ●労働力のAIシフトの失敗 AIの普及はビジネスの在り方を変え、従来業務をAIに肩代わりさせて効率化を図る傾向が見られます。しかし、このAIシフトのあり方について、米大手テックのメタ・プラットフォームズのザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は経営判断を問われることになりました。 同社は2026年5月、大規模な組織再編を実施し、世界の従業員の約1割を解雇するとともに、7000人もの人員をAI関連業務へ一斉に異動させたとされています。さらに、従業員の解雇と並行して評価制度の変革も実行したことにより、社員の「心理的安全性」が損なわれる結果をもたらしたといわれています。 この急激なAI業務への移行は、社員の不満と士気の低下を招き、組織内の対立を深めました。こうした事態を受け、ザッカーバーグCEOは急速なAIへの人員シフトで誤りを犯したことを認め、組織の安定性の確保に注力する方針を述べたと報じられています。 ●企業の競争力につながる取り組みを見極める メタ社のような混乱を招かないためにも、DXはあくまで人材戦略の手段として行われるべきであり、人材がDXに従属する逆転構造をつくらないことが重要になります。 冒頭でも述べたとおり、DXは単なるITスキルの習得を意味するものではありません。ITスキルの習得やAIの活用による業務効率化は目的ではなく手段であり、真のDXは新たな価値創造にあります。「DX人材の育成」を掲げる企業が、この「真のDX」を実現できるのか否かが、今後の競争力を左右する差別化要因となるのではないでしょうか。 人的資本経営とは、人材を「コスト」や単なる「資源」ではなく、価値を生み出す「資本」と捉え、その能力や意欲を高めるための投資を通じて、中長期的な企業価値の向上を図る経営のあり方です。どのような施策の実行が、その企業の競争力に結びついていくのかを見極めることが、ESG投資における最重要の課題と言えるでしょう。 情報提供:株式会社グッドバンカー (2026年6月23日 記/次回は2026年8月1日配信予定) 株探ニュース
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