およそ金融商品を買っている場合、例えば自分の好みの株を買っている、とか、日経225先物のロングポジションをもっている、とか、
あるいは、日経平均に連動する金融商品を買っている、というような場合に、私たちが恐れるのは、市場が何らかの原因でクラッシュして暴落することです。
このように日経平均の変動に対して正の方向にポジションをとっている場合(上昇目線=ブル=ロングポジションなどという。)に、
いわゆる「何とかショック」等による暴落の損失は御免こうむりたいというとき、保険の機能を有するのが、日経225オプションの「プットオプション」だということは、すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
保険の機能を有するということは、すなわち、このプットオプションという商品が日経平均の値動きと反対の動きをするように設計されている商品だということです。
日経平均が下がれば、プットオプションの値段が上がることになります。
ですから、このプットオプションを買っておけば、日経平均が下落する際、プットオプション価格の値上がり益で株等の損失をカバーすることができるというわけです。
百聞は一見に如かず。最近の事例ですが、プットオプションが10倍どころか75倍にもなった事例をご紹介しましょう。
下の【図表1】は2018年2月5日~6日の暴落の場面のものです。
米国市場において雇用統計の結果が良く、逆に利上げ確実ということで、市場が大きく崩れた場面です。日本市場へも当然影響がありました。数日前、日経平均は24000円を超えていましたが、一気に21000円まで急降下。そういう状況でした。
このとき2018年2月2日に10円で購入したP22125(プットオプション権利行使価格22125円を表します。)が2月6日の終値(※アウトオブザマネーである同じ権利行使価格のコールからプットコールパリティにより算出)で745円まで上がりました。
日経225オプションの世界では、価格を1,000倍したものが投資金額になりますので、この場合、実際の投資額は10,000円(10円×1,000倍)となります。そして、このオプションが、うまく決済できていれば70万円以上の利益になった可能性があったのです(満期まで持っていたら925,000円の利益)。仮に日経平均が権利行使価格を下回らなかったとしても失うのは、この最初に購入代金として支払った10,000円だけです。
この事例をみれば、プットオプションのすさまじさがお分かりかと思います(実践編に掲載している北浜投資塾の第1回セミナーの事例もご覧ください。別の場面で同じくプットオプションの買いで大きな利益となった事例を紹介しています)。
このプットオプションの買いを個人投資家が手掛けるにはどうすればよいか、これを検討していくのが「第1回 プットオプションの買い戦略」のテーマです。
さて、プットオプションですが、これは一般に、原資産を売る権利と説明されます。
プットオプションの買い手は権利を買うわけですから権利者であり、この売る権利を行使して、自分の選択した権利行使価格で原資産を売ったことにできるのです。
例えば、日経平均の権利行使価格20,000円のプットオプションの買い手は、その権利(日経平均を20,000円で売ったことにできる権利)を行使することで、日経平均を20,000円で売った(ショートした)立場に立つことになります。そして満期において権利行使価格と満期の精算価格(SQ値)とで差金決済されるというルールです。
したがって、いわゆる「売る権利」と説明するよりは、【図表2】にあるように、プットオプションの買い手は、日経平均が権利行使価格よりも下に行った部分(権利行使価格と日経平均の差分)を受け取ることができる(逆に売り手は支払う義務を負う)と説明した方がわかりやすいかもしれません。
プットの買い手としては、日経平均が自分の選んだ権利行使価格を割り込んで下げれば下げるほど、受け取りが大きくなりますから、相場が大きく下落してほしい(=動きが大きいことを期待している)わけです。
もちろんこのプットオプションはただでは手に入りません。売り手の立場にたてば、万が一大きく下落したら売り手は権利行使価格以下の部分、すなわち当該権利行使価格とSQ値の差額を買い手に支払わないといけませんから、あらかじめそれなりにそのリスクに見合う代金を買い手に支払わせる必要があります。
一方、買い手としては、権利行使価格を割り込まなければ受け取りはないため、最初の支払額を全部失うことになるし、また、権利行使価格を割り込んでも当初の支払額以上に受け取りがなければ損失になるのですから、支払額はできるだけ少ない方がいいわけです。
例えば、ある日の日経平均が20,100円ぐらいのときに、権利行使価格20,000円のプットオプションが250円で売買されているというとき、
買い手は日経平均が権利行使価格である20,000円をただ割り込めばよいわけではなく、当初の支払額250円を回収するために日経平均が権利行使価格よりも更に250円下の19,750円を割らなければなりません。(図表③)
一方売り手の方はといえば、日経平均が20,000円を割り込んだとしても、19,750円までは、当初に受け取った250円を原資として買い手に支払えばよいのであって、損にはなりません。(図表④)
したがって、ここでの勝負は、日経平均が350円以上下落して19,750円を割り込むかどうかの勝負ということになります。このラインを割り込むと考える買い手と割り込まないと考える売り手の思惑が拮抗し、250円で売買が成立している状態なのです。
買い手に利益が出るためには、先の例でいえば満期までに下方向に350円以上動かなければなりません。もしこのプットオプションが100円で売買されていたならば、そこまでの下落は必要なく19,900円を割り込めばよい、すなわち200円以上の下落があればよいことになります。株価の変動の大きさ(変動率)をボラティリティといいますが、まさにオプションを取引するということは、単に株価が上がるか下がるかということのみならず、満期までに、どれぐらい動くか、すなわちボラティリティが非常に重要になってくるわけです。プットオプション買い手は、下落の予想のみならず、どれくらいの下落があるかを予想して戦うことになるのです。
そうなると、オプションの買い手としては、願わくは、「(1)満期までに(短期的に)大きく動いてほしい」、「②できるだけオプションの購入代金を小さくしたい」、ということになります。
相場の変動は短期的には上昇よりも下落の方が速く、変動幅も大きいことは経験則上イメージがつくと思いますので、プットオプションは上記買い手の願い①を満たします。したがって個人投資家がまずオプションを始めるならば、プットオプションを買うことから始めるとやりやすいわけです。ということで、最初にプットオプションの買いからお話しているわけです。
では②できるだけオプションの購入代金を小さくしたい、という点はどうでしょうか。次回、はこの点について検討したいと思います。どういうタイミングでやれば②が満たされるか、というお話です。お楽しみに!
本コラムは、株式会社大阪取引所が運営する北浜投資塾の「個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座」の内容について
大阪取引所及び執筆者の許諾を得て掲載しております。
あるいは、日経平均に連動する金融商品を買っている、というような場合に、私たちが恐れるのは、市場が何らかの原因でクラッシュして暴落することです。
このように日経平均の変動に対して正の方向にポジションをとっている場合(上昇目線=ブル=ロングポジションなどという。)に、
いわゆる「何とかショック」等による暴落の損失は御免こうむりたいというとき、保険の機能を有するのが、日経225オプションの「プットオプション」だということは、すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
保険の機能を有するということは、すなわち、このプットオプションという商品が日経平均の値動きと反対の動きをするように設計されている商品だということです。
日経平均が下がれば、プットオプションの値段が上がることになります。
ですから、このプットオプションを買っておけば、日経平均が下落する際、プットオプション価格の値上がり益で株等の損失をカバーすることができるというわけです。
百聞は一見に如かず。最近の事例ですが、プットオプションが10倍どころか75倍にもなった事例をご紹介しましょう。
下の【図表1】は2018年2月5日~6日の暴落の場面のものです。
米国市場において雇用統計の結果が良く、逆に利上げ確実ということで、市場が大きく崩れた場面です。日本市場へも当然影響がありました。数日前、日経平均は24000円を超えていましたが、一気に21000円まで急降下。そういう状況でした。
このとき2018年2月2日に10円で購入したP22125(プットオプション権利行使価格22125円を表します。)が2月6日の終値(※アウトオブザマネーである同じ権利行使価格のコールからプットコールパリティにより算出)で745円まで上がりました。
日経225オプションの世界では、価格を1,000倍したものが投資金額になりますので、この場合、実際の投資額は10,000円(10円×1,000倍)となります。そして、このオプションが、うまく決済できていれば70万円以上の利益になった可能性があったのです(満期まで持っていたら925,000円の利益)。仮に日経平均が権利行使価格を下回らなかったとしても失うのは、この最初に購入代金として支払った10,000円だけです。
この事例をみれば、プットオプションのすさまじさがお分かりかと思います(実践編に掲載している北浜投資塾の第1回セミナーの事例もご覧ください。別の場面で同じくプットオプションの買いで大きな利益となった事例を紹介しています)。
このプットオプションの買いを個人投資家が手掛けるにはどうすればよいか、これを検討していくのが「第1回 プットオプションの買い戦略」のテーマです。
さて、プットオプションですが、これは一般に、原資産を売る権利と説明されます。
プットオプションの買い手は権利を買うわけですから権利者であり、この売る権利を行使して、自分の選択した権利行使価格で原資産を売ったことにできるのです。
例えば、日経平均の権利行使価格20,000円のプットオプションの買い手は、その権利(日経平均を20,000円で売ったことにできる権利)を行使することで、日経平均を20,000円で売った(ショートした)立場に立つことになります。そして満期において権利行使価格と満期の精算価格(SQ値)とで差金決済されるというルールです。
したがって、いわゆる「売る権利」と説明するよりは、【図表2】にあるように、プットオプションの買い手は、日経平均が権利行使価格よりも下に行った部分(権利行使価格と日経平均の差分)を受け取ることができる(逆に売り手は支払う義務を負う)と説明した方がわかりやすいかもしれません。
プットの買い手としては、日経平均が自分の選んだ権利行使価格を割り込んで下げれば下げるほど、受け取りが大きくなりますから、相場が大きく下落してほしい(=動きが大きいことを期待している)わけです。
もちろんこのプットオプションはただでは手に入りません。売り手の立場にたてば、万が一大きく下落したら売り手は権利行使価格以下の部分、すなわち当該権利行使価格とSQ値の差額を買い手に支払わないといけませんから、あらかじめそれなりにそのリスクに見合う代金を買い手に支払わせる必要があります。
一方、買い手としては、権利行使価格を割り込まなければ受け取りはないため、最初の支払額を全部失うことになるし、また、権利行使価格を割り込んでも当初の支払額以上に受け取りがなければ損失になるのですから、支払額はできるだけ少ない方がいいわけです。
例えば、ある日の日経平均が20,100円ぐらいのときに、権利行使価格20,000円のプットオプションが250円で売買されているというとき、
買い手は日経平均が権利行使価格である20,000円をただ割り込めばよいわけではなく、当初の支払額250円を回収するために日経平均が権利行使価格よりも更に250円下の19,750円を割らなければなりません。(図表③)
一方売り手の方はといえば、日経平均が20,000円を割り込んだとしても、19,750円までは、当初に受け取った250円を原資として買い手に支払えばよいのであって、損にはなりません。(図表④)
したがって、ここでの勝負は、日経平均が350円以上下落して19,750円を割り込むかどうかの勝負ということになります。このラインを割り込むと考える買い手と割り込まないと考える売り手の思惑が拮抗し、250円で売買が成立している状態なのです。
買い手に利益が出るためには、先の例でいえば満期までに下方向に350円以上動かなければなりません。もしこのプットオプションが100円で売買されていたならば、そこまでの下落は必要なく19,900円を割り込めばよい、すなわち200円以上の下落があればよいことになります。株価の変動の大きさ(変動率)をボラティリティといいますが、まさにオプションを取引するということは、単に株価が上がるか下がるかということのみならず、満期までに、どれぐらい動くか、すなわちボラティリティが非常に重要になってくるわけです。プットオプション買い手は、下落の予想のみならず、どれくらいの下落があるかを予想して戦うことになるのです。
そうなると、オプションの買い手としては、願わくは、「(1)満期までに(短期的に)大きく動いてほしい」、「②できるだけオプションの購入代金を小さくしたい」、ということになります。
相場の変動は短期的には上昇よりも下落の方が速く、変動幅も大きいことは経験則上イメージがつくと思いますので、プットオプションは上記買い手の願い①を満たします。したがって個人投資家がまずオプションを始めるならば、プットオプションを買うことから始めるとやりやすいわけです。ということで、最初にプットオプションの買いからお話しているわけです。
では②できるだけオプションの購入代金を小さくしたい、という点はどうでしょうか。次回、はこの点について検討したいと思います。どういうタイミングでやれば②が満たされるか、というお話です。お楽しみに!
本コラムは、株式会社大阪取引所が運営する北浜投資塾の「個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座」の内容について
大阪取引所及び執筆者の許諾を得て掲載しております。