カレンダースプレッド

カレンダースプレッド 異なる限月のオプションを組み合わせる


一般にオプション取引の教科書ではボラティリティー(価格変動率)をトレードする方法として、「カレンダースプレッド」と「リバースカレンダースプレッド」が紹介されることが多いので、今回と次回、2回にわたってこれらの戦略について検討します。今回はカレンダースプレッドについて説明します。

カレンダースプレッドとリバースカレンダースプレッドは、異限月の銘柄を取引します。オプションの価格表は、通例、権利行使価格を縦に、限月を横に配列するのが一般的です。異限月の組み合わせは、価格表の横の関係にある銘柄の買い玉・売り玉を組み合わせるので、「ホリゾンタル」スプレッドとよぶこともあります。また、異限月間取引は満期までの時間差を利用することから「タイム」スプレッドとよばれることもあります。

カレンダースプレッドは、満期が近い方の銘柄(期近)を売り、満期が遠い方の銘柄(期先)を買います(図表1)。原則として、期近と期先を同じ権利行使価格とし、それぞれ同じ枚数でポジションを組成します。オプション価格は期近の方が必ず安いので、組成時は支払いになります。そして期近が期先よりも高くなることはないので、期近と期先を同時に手じまいする限り、最初に支払った価格を超える損失にはなりません。(損失限定)

図表1 カレンダースプレッドの損益図
図表1 カレンダースプレッドの損益図

ベガは必ず期近よりも期先の方が大きいため、期近を売って期先を買うポジションでは、ベガは必ずプラスになります。このようにベガがプラスである点に注目して、カレンダースプレッドは、いわゆるベガロング、すなわちインプライドボラティリティー(IV)の上昇を予想してとるポジションであると説明されるのです。ベガが+13.36ですので、それぞれのオプションのIVが1ポイント上昇すれば、13,360円の利益が出ることになります。

ただ、このカレンダースプレッドは他のリスクもとってしまっています。アット・ザ・マネー(ATM)でカレンダースプレッドを組成した場合、当初デルタは±0ですが、ガンマがマイナス(=ネガティブガンマ)ですから、相場が大きく動くとガンマから損失が出ます。損益グラフが山の形をしていることがそれを表現しています。ガンマが敵なのですからシータは味方です(シータはプラス)。すなわちタイムディケイの恩恵にあずかることができます。

このようにガンマが敵になるカレンダースプレッドは、若干矛盾をはらむポジションです。すでに前の稿でみたように、IVは相場が大きく下落するときや予想外の大上昇などの変動時に大きく跳ね上がる性質がありますが、ガンマが敵ですから、そうした相場変動局面ではガンマのせいで実は損失になるのです。せっかくIVが上昇してベガで利益が出ても、それ以上にガンマでやられるわけです。例えば上記の例であれば日経平均が1,000円以上下落し、21,000円を割り込むような展開では、IVが上昇してもガンマのせいで損失となる可能性が高いのです。

言い方を変えると、売り買い交錯して相場が動かないが、どちらかに発散する可能性が高まり、IVがじわじわ上昇するような場面で力を発揮することになります。また相場が動かなければ、IVが多少低下してベガから損失がいくばくか出たとしても、シータの力でタイムディケイにより利益になる可能性があるということになります。上記図表の損益グラフを見ると、IVに変化がない場合の予想カーブ(黄)よりも実際の損益カーブ(ピンク)の方が下にあるのは、IVの低下分利益が少なくなっていることを示しています。それでも損益0の水平ラインよりも上方にありますから、タイムディケイから利益が出ているわけです。

注意が必要なことがいくつかあります。カレンダースプレッドは期近売りと期先買いポジションですが、IVの変動の仕方が期近と期先とで異なることが多いということです。IVの変動は期近の方が敏感で大きい傾向があるため、IVが上昇する場面では、期近のIVの上昇が大きく、期先はほとんど変化がないといったこともよくあります。売っている期近のIVが上昇すると、期近は損失となります。期先のIVがほとんど反応しないような状況では、この損失を期先の買いのIV上昇の利益で賄えないわけです。

また、期近と期先のIVバランスが悪いとき、すなわち期先のIVが高いときにカレンダースプレッドのポジションを組むと、安い期近を売って高い期先を買うことになりますので最初からから不利に入ることになります。逆に、期近のIVが期先に比べて高いときに入れると有利なスタートになるわけです。

もう一点問題があります。ATMで組んだ場合、相場が崩れるとその時点ではすでにATMではなくなっているわけで、当初のベガの値を維持できないという点です。ベガはATMで最大の値をとりますし、時の経過によりだんだん小さくなっていく性質があるため、ATMで組んでいる場合、相場の変動や時の経過により当初のベガ値よりも小さくなっていくのです。(ただ、このベガの減少ですが、期近の方が大きくその値が減少しますので、ベガのロング度合いは小さくなりはしますが、IVの上昇の利益を享受することは可能です)



これらの特徴を踏まえて、戦略を検討します。

結局ATMで組んだ場合は、動かない方がうれしいわけで、相場の大きな下落によるIVの急上昇の恩恵にあずかることはできません。となるとATMで単純に組む場合は、安全なタイムディケイ狙いということになりましょう(損失限定)。戦略としてはよいのですが、IVの上昇を取りに行く戦略とはいえませんので、本稿では動いても大丈夫なように少々工夫する方法をご紹介します。(戦略①)

また、カレンダースプレッドは期近売り、期先買いのポジションですので、期近が期先に対して相対的に高いタイミングで組成するのがよく、かつ相場が自分のいる権利行使価格に近づくとうれしい性質を利用しましょう(戦略②)すなわち、急落時に先に反応した期近のIVが高まったタイミングで、その地点からアウト・オブ・ザ・マネーのプットで組めば、さらなる下落は自分の権利行使価格に近づくので有利ですし、その下落で遅れていた期先のIVが上がる可能性もあります。反転上昇してしまった場合は、期近のIVが急速に低下するので、逆行でも損失を小さくできる可能性があります。(なお、急落時のATMカレンダースプレッドは期先の流動性が著しく低下するために、組成するのが難しいので、あえてアウト・オブ・ザ・マネーのプット・オプションでもう一発の下落を待ちかまえる作戦をとるのです)


 

戦略① ATMカレンダースプレッド応用戦略


図表2 ATMカレンダースプレッド応用戦略の組成時のポジション
図表2 ATMカレンダースプレッド応用戦略の組成時のポジション

単なる同枚数ATMカレンダースプレッドでは、先に説明したようにガンマがマイナスになります(図表2)。ガンマとシータに関してはその絶対値は「期近>期先」の関係にあります。一方ベガに関しては「期近<期先」です。ガンマとシータの数値を相殺するように枚数調整してみます。期近のガンマの数値は期先のガンマの数値の約2倍ですので、期先を2倍にします。ベガは期先の方が大きいので、期近売りに対し、期先を2倍量買うことでガンマとシータを相殺しつつ、ベガを大きくプラスで取り出すことができます。そして日経225miniでデルタを0になるように調整(デルタヘッジ)すれば、デルタも消すことができます。

上記のように最終的にはデルタ≒0、ガンマ≒0、シータ≒0、ベガ≒+45という形でベガだけを大きく取り出すことができました。なお、コールでもプットでも組成は可能です。ただ、大きく下落した場合、プットを使っているとディープ・イン・ザ・マネーになってしまい手じまいが難しくなります。上記例はコールを利用しています。



図表3 ATMカレンダースプレッド応用戦略の組成時の損益図
図表3 ATMカレンダースプレッド応用戦略の組成時の損益図

このように、組成時は上下1,000円程度の変動ではほとんどデルタに変化がない姿をしています(図表3)。この範囲内ではIVの変化だけがリスクであり、IVが低下すれば、このグラフは下に沈む(損益0ラインを割り込む=損失)ことなりますが、急激に相場が下落しIVが上昇した場合は、全体的にグラフが上方に持ち上がることになります。また、ポジション組成時はガンマを消しましたが、大きな変動ではガンマが再びプラスになっていくので下は22,500円を割り込む展開、上は24,000円を超える展開ではグラフ自体が上向きの姿になっています。大変安心感のあるポジションです。

ただ、大きく変動して全体のIVが上昇したとしても、すでにATMでなくなったオプションのベガは当初よりも小さい値をとることになります。そうはいうものの、期近のベガの値が急速に低下するので、全体としてはベガプラスの状態を維持できます。しかも大きな下落では上記損益グラフが示すようにガンマが効いてきます。

実際、数日後に大きく下落しました。

図表4 ATMカレンダースプレッド応用戦略の4営業日後の損益図
図表4 ATMカレンダースプレッド応用戦略の4営業日後の損益図

予想グラフ(図表4、黄)では、ガンマが効いてくる手前の22,500円、24,000円あたりでグラフが若干くぼんでくることがわかります。中心部はシータが若干プラスのために少々ガンマがマイナスに振れており、そのせいで山なりの姿になっており、その影響で22,500円、24,000円付近がくぼむのです。そして、このあたりからガンマがプラスに変化するためタイムディケイの影響もでてきます(ガンマが効いてくることの裏返しでシータ=タイムディケイが効いてくるのです)。なお、予想グラフはIVに変化がない場合の姿です。実際には22,500円あたりまで数日で急落したためにIVの上昇によるベガの利益でグラフが上方に持ち上がっていることが見て取れると思います。(ピンク)

ベガはATMで最大の値をとりますので、大きく下落しすでにアウト・オブ・ザ・マネーになってしまったオプションは、ベガは当初の値のままではなく小さくなります。しかし、ベガは満期が近づくと急激にその値が小さくなるために、期近のベガが急速にその値を減らすのに対し、期先はベガの値の目減りが期近に比べて小さいため、その性質を利用してベガプラスを維持することが可能です。実際、期近のベガはほとんどないに等しい状態であり、相当アウト・オブ・ザ・マネーになったにも関わらず、期先のベガはまだ大きく値を残しています。その結果、ベガからしっかりと利益が出ています。

図表5 ATMカレンダースプレッド応用戦略の5営業日後の損益図
図表5 ATMカレンダースプレッド応用戦略の5営業日後の損益図

翌日2,000円近く下落しました。実際の損益グラフ(ピンク)は、予想グラフよりも上方に持ち上がっていることが見て取れると思います。これはベガからの利益なのですが、非常に大きな下落だったため、ガンマからの利益も加わって大きな利益となっています。

このように、IVの低いタイミングで期近を売り、ガンマの値を相殺できるように期先を多く買う戦略は、相場が動かなければそれほど損失はなく、相場が大きく動けば大きな利益が出る可能性のある戦略といえましょう。
 

戦略② 相場が崩れて期近のIVが先に高まったタイミングでアウト・オブ・ザ・マネーのプット・オプションで組成する


相場が急落したときは期近のオプションの方が先に反応することが多いという特徴、また、自分の権利行使価格付近に来ることがカレンダースプレッドにとっては利益になりやすいという特徴から、相場が急落して期近IVが相対的に高いとき、数百円下の権利行使価格のプット・オプションでカレンダースプレッドを組むという戦略について考えてみましょう。もう一段の下げは、自分の権利行使価格に寄る動きですし、戻す動きになれば期近のIVが急速に低下するだろうという考えです。

記憶に新しい2018年末の大きな下げの場面で見てみることにしましょう。(図表6、7)

図表6 日経225先物の価格推移
図表6 日経225先物の価格推移

図表7 期近オプションと期先オプションのIVの推移
図表7 期近オプションと期先オプションのIVの推移

12月20日は前日終値比(日経225先物)で710円も下げました。期近(紺)期先(赤)IVの水準は上記赤丸の部分です。このときさらに下のP19375でカレンダースプレッドを組成してみます。デルタ調整のために2セットに対し日経225miniを1枚買っています。(図表8)

図表8 戦略②の組成時(2018年12月20日)のポジションと損益図


もう一回の1,000円の下げでも耐えられる姿ですし、そのときは期先のIVも上昇するでしょうから、プラス着地の可能性があります。ここから反転して戻すならば期近のIVが低下するはずです。

実際どうなったのかを見てみます。25日に大きく下げることになります。(図表9)

図表9 戦略②の損益推移
図表9 戦略②の損益推移

もう一発の大きな下げに見舞われましたがなんとかプラス着地できた可能性があります。もちろんイン・ザ・マネーになっていますので、手じまいが難しい状況ではあります。アウト・オブ・ザ・マネーのコールを利用して損益を固定するなどの工夫が必要になる場合もあります。(プットコールパリティによる決済)

12月25日に大きく下げたわけですが、期近・期先のIVの状況はさらに期近が高くなっていました。ここで比較のために同様のポジションをとってみることにします。(図表10)

図表10 戦略②のポジションを2018年12月25日に再び組成
図表10 戦略②のポジションを2018年12月25日に再び組成



500円ほど下のP18500(権利行使価格が18,500円のプット・オプション)でカレンダースプレッドを組成し、デルタを調整するために3セットに対し日経225miniを1枚買っています。この日を底に翌日は365円の上昇となりました。上記をみてもわかるように、相場の上昇により期近IVが大きく下げたことにより利益が出ています。(ピンク=実績が黄=予想を大きく上回っています。これはIVからの利益です)

この比較でわかるように、もう一発の下げを待ち構えつつ、反転した場合には、期近のIVの下げで何とかカバーするというアイデアなのです。期近IVが期先に対して強く反応したタイミングでエントリーするのがポイントです。

以上のように、オプショントレーダーは様々なアイデアから戦略を練って戦っています。リスクパラメータをみながらガンマとシータを消してベガだけを取り出す戦略①、期近と期先のIVの差を利用する戦略②は、まだまだ奥の深いカレンダー系戦略のほんの少しの戦略案にすぎません。ただ、これらの戦略を検討することで、ギリシャ文字を知ること、IVの特徴を知ることが自分の力になることが少しでも体感いただけましたら幸いです。

次回は最終回です。IVの低下を狙いに行くリバースカレンダースプレッドを検討します。お楽しみに!

本コラムは、株式会社大阪取引所が運営する北浜投資塾の「個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座」の内容について
大阪取引所及び執筆者の許諾を得て掲載しております。

このコラムの著者

守屋 史章(モリヤ フミアキ)

オプショントレード普及協会 代表理事
宮崎県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒、同法学研究科修士課程修了。個人投資家として企業数社に投資し、ビジネスオーナーを務める傍ら、証券などへの投資をも手掛ける。投資におけるオプション取引を普及させることを目的に、金守遼太氏と共同でオプショントレード普及協会を設立。短期トレーディングから長期運用まで幅広い投資ニーズをかなえる資産運用を研究している。「オプションについて話せる仲間が見つからない」という孤独になりがちな投資の研究と意見交換を行える会員制のメンバーシップを中心に、個人投資家目線だからこその目からウロコの独創的アイデアと分かりやすい解説で、「わかる」「できる」をサポートする。