カバードコール戦略の威力とその限界
日経225miniを10枚(日経225先物1枚に相当)ロング(買い持ち)し、その水準よりも高い権利行使価格のコールを売るという「カバードコール戦略」は、コール売りによるプレミアムの受け取り額の分が利益に上乗せされることになりますし、その受け取り分だけ損切りラインを遠く(下に)設定できるという効果があることを前回説明しました。実際にトレードする場合、上乗せ利益もさることながら、損切りラインを遠くに離しつつ、損切りになったとしてもその損失を小さくできるという効果のメリットは大きなものがあります。
とはいうものの、いくら損切りラインを遠くに離しても、そこまで下落してしまえばポジションはなくなりますので、その後反転上昇し、当初想定していた利食いポイントまで上昇してもその利益は絵に描いた餅です。また、上昇の過程で利が乗ってきたところで、「ストップライン」(引き上げた逆指値ラインを損切りラインではなくストップラインと呼ぶことにします)を徐々に引き上げていく「トレーリングストップ」という手法を用いても、ストップラインまで下げてしまえば、そこでポジションはなくなりますので、やはりそこから反転して上昇していくような展開でもその上昇の利益にあずかることはできません。
前回紹介した事例は、2月13日に日経225mini10枚を21,170円で買い、C22125(コールオプション権利行使価格22125円)を210円で1枚売るという取引でした。実際、C22125を売り、210円のゲタをはくことができていたために、損切りラインを20,750円付近まで下げることができました。そのため、2月14日の下げでもなんとか損切りせずに済んでいます。日経225先物は21,000円で支えて上昇に転じ、2月19日には22,000円を超えてきました。(図表1)
図表1 2018年2月13日~3月9日の日経225先物第1限月日足チャート
2~3日後には利益が乗り始めました(図表2)。
こうなってくると、「損切り」ではなくある程度は利益を確保すべく、トレーリングストップにより2月16日時点で500円下の21,250円あたりにストップラインを引き上げれば、この後下げに転じても日経225miniの損失はありません。あるいは、250円下の21,500円あたりまでストップラインを引き上げておけば、少々の下落ですぐにストップラインに到達する可能性も高まりますが、2月15日の実績から推測すれば30万円前後の利益を確保できる可能性があります。
図表2 カバードコール戦略の1~3日後の損益(含み損益)の推移
このように、ストップラインを徐々に引き上げていくトレーリングストップが功を奏し、日経225先物が22,000円を超える展開で、利益(含み益)をさらに伸ばすことができました。(図表3)
図表3 カバードコール戦略の6~8日後の損益(含み損益)の推移
22,100円を超えてきましたので、その時点で利食いするというのもありですが、まだコールの時間的価値が残っていますので、利食いをもう少し待つ間、ストップラインをさらに21,600円に引き上げたとしましょう。仮に21,600円でストップにかかったとしても、40万円程度の利益は確保できそうです。さらに上昇し、最終的に満期に22,125円以上で着地すれば100万円以上の利益になる可能性があります。
ところが、2月22日に21,590円まで下げてしまいました。21,600円に置いたストップが発動されることになります。なお、日経225miniのポジションは逆指値22,600円前後で自動的に手仕舞いとなりますが、C22125は手動で決済しなければなりません(ここでは機械的に返済しなければなりません)。図表4は終値ベースの結果ですが、おそらく反対売買した時点では45万円前後の利益だったのではないかと推測されます。
図表4 カバードコール戦略の9日後の損益(含み損益)
このようにストップラインを引き上げていきながら、利益を確保しつつ、さらなる上昇の利益を狙うトレーリングストップの手法では、ストップラインに到達してしまえばそれでおしまいになってしまいます。
プットの追加買いでこれまでの上昇益を確保
そこで、下落対策としてプットオプションを利用することを考えます。コールを売って得たプレミアムの範囲内でプットを買う、すなわちゼロコストでのプット買いです。
今回の事例で当てはめてみましよう。ある程度利益が乗ってきた2月19日にP21625を210円で買うのです。コールを売って受け取ったプレミアムの範囲内ですので、このプット買いのコストはかかっていません。(図表5)
図表5 日経225mini10枚買い@21,170+C22125売り@210+P21625追加買い@210の損益図
こうすることで、日経225miniが22,100円から下落し21,625円以下になったとしてもエントリーの21,170円から21,625円までの上昇益455円は確保できており、かつ、いったん21,625円を割り込んだとしても日経225miniのロングポジションは有効なままですので、そのまま上昇に転じれば、目標の22,125円までの上昇益955円を狙うことが可能です。
2月22日にはいったん21,625円を割り込みましたが、プットが効いていますので怖くありません。上昇に転じてくれればまだまだ上昇益を狙えます。
図表6 一旦下落した2月22日時点の損益とその後
プットが効いていますので、2月22日の含み損益をみても下落の影響は小さいですし、その後再度上昇し22,125円を超える展開で80万円を超えてきました(図表6)。この時点で利食いしてもよいでしょう。まだまだ、コールの時間的価値が残っているために含み損益は満額955,000円には届いていないので、まだ待つというのもありです。
ただ、ここが相場の難しいところなのですが、SQの直前3月に入ってから再度下落に転じてしまい、最終着地は最低確保額である455,000円の利益にとどまりました。(図表7)
図表7 3月9日時点のSQ損益
このように最大利益までまだもう少し上乗せできる場面で、ストップの代わりに下落保険としてゼロコストでプットを買うことにより、相場のうねりの中の多少大きめの下落でもロングポジションを維持することが可能となるのです。
プットを多めに買い、下落時に利益を狙う戦略
ところで、カバードコール戦略がうまくいった場面は、相場が上昇し、IV(インプライドボラティリティー)も十分に低下しており、第1回~第4回でご紹介したプット買い戦略の良いタイミングでもある可能性があります。そこで、カバードコールで受け取ったプレミアムを使って、プットを多めに買ったらどうでしょうか。
このような戦略アレンジにより、コール売りからの受け取りプレミアムの範囲内でプットを多めに複数枚持つことで、カバードコール戦略の利益を確保しつつ、大きな下落が起こればむしろ大きな利益になるプット買い戦略に持ち込むというのも面白いと思います。これを最近の事例(図表8)に当てはめてみましょう。
図表8 2018年9月14日~10月12日の日経225先物第1限月日足チャート
2018年9月14日に23,000円を超えていきそうな強い展開を予想し、日経225miniを10枚22,970円でロングし、C23625を105円で売るカバードコール戦略をとったとしましょう。最初は22,700円あたりに損切りラインを設定します。予想通り日経225先物は上昇し23,500円を超え、9月26日には24,000円を超える展開となりました。少しずつ引き上げていたストップ(トレーリングストップ)の代わりに、P23250を69円で買います。(図表9)
図表9 日経225mini10枚買い@22,970+C23625売り@105+P23250追加買い@69の損益図
最終的には売っているC23625の時間的価値がなくなって、約70万円の利益になる可能性があるポジションです。
この後さらに上昇し、24,500円をうかがう展開になりました。10月1日、P23375はわずか32円で買えます。これでもまだ最初に売ったC23625からの受け取りの範囲内ですので、ゼロコストでプットを買えている状態です。P23375単体は利益無限大ですので、大きく下落すると大きな利益が狙えるポジションになりました。(図表10)
なお、このとき日経225miniとC23625を決済し、プットオプションだけを残してももちろんかまいません。(イン・ザ・マネーとなったコールオプションの決済は難しいかもしれません。また、この時点ではコールオプションには時間的価値がまだ残っており、それを反対売買により決済するので、プット買いはゼロコストではありません。ただし、これで約60万円を確保することができます。そしてあとはプット買いポジションだけが残ります)
図表10 ゼロコストプット買い(P23250買い+P23375買い)が入った状態の損益図
その後はご存じの展開です。日経225先物は大きく下げました。SQ値は22,313円です。(図表11)
図表11 10月12日時点のSQ損益
あくまでシミュレーションの結果ですが、カバードコールにより受け取ったコールオプションの受け取りプレミアムの範囲でプットオプションを買うことで、むしろ下落の展開で利益を上げることができています。カバードコールからのゼロコストプット買い戦略といったなかなか面白い戦い方ができるのもオプション投資の醍醐味です。
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