S&P500 月例レポート ― “対立”に屈せず、未踏の領域に力強くまい進 (2) ―

配信元:株探
著者:Kabutan
●トランプ大統領と政府高官

 議会下院は医療保険制度改革法(オバマケア)の「改廃法案」を僅差で可決して(賛成217票、反対213票)、トランプ政権と共和党が勝利を収めました。その後、この法改革の試算を行った議会予算局は、連邦政府の赤字は10年間で1,190億ドル削減されるものの、2026年末までに2,300万人が保険を失うという結果を発表しました。この法案は次の上院で大幅な修正が加えられると予想されており、改廃法案というよりはオバマケアの修正と呼ぶ方がふさわしいというのが大方の見方です。議会では2017年9月末までの連邦予算の債務上限案が審議され、約1兆1,000億ドルの国債発行枠が合意されましたが、その期限が2017年9月末に来ます。今回の合意で、行政と議会の双方が多少なりとも勝利を得ましたが、トランプ大統領は得られなかったものに対するこれまでよりもやや強い不満を表明し、将来の駆け引きと政府機関閉鎖の可能性をツイートに投稿しました。

 トランプ大統領の2018年度予算案は向こう10年間で3兆6,000億ドルの減税を含んでおり、国防とインフラへの支出を増やす一方、メディケイド(低所得者医療扶助制度)、フードスタンプ(低所得者向け食料費補助対策)、社会福祉プログラムへの支出を削減するとしています。メディアは、ティラーソン国務長官が国務省の職員(現在75,000人のうち)2,300人の削減と、同省の予算26%の削減を計画していると報道しました。

 トランプ大統領の最初の海外訪問先は中東のリヤド(トランプ大統領は現地で、テロとの戦いの継続を訴えました)とエルサレムで(ここでは融和を説きました)、その後はイタリア(トランプ大統領とローマ法王が会見し、両者とも過去のあつれきはすでに過ぎ去ったという姿勢を見せました)とブリュッセル(大統領は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に防衛費の増額を求めました)を訪問しました。トランプ大統領の外遊は、マイナスの材料がなかったという点で成功したとみられる一方、ドイツのメルケル首相は、欧州の将来はこれまで以上に欧州が(米国抜きで)決定していくべきだ、と発言しました。

 トランプ大統領の外遊中も米国内の問題は継続し、さらに深刻さを増している模様で、引き続きいくつかの捜査が行われ(トランプ大統領のロシア疑惑、コミー氏の解任、フリン氏のロシア疑惑、など)、法案の立法化が妨げられていると懸念されました。

●年内にFOMCはなお2回利上げ

 各国中央銀行関連の動きをみると、FOMCは5月2~3日の会合で、全会一致で予想通りに金利を据え置きましたが、将来の情勢は利上げを後押しすると思われると付け加えました。現在のバランスシート政策にも変更はなく、バランスシートの縮小を開始する時期について、新たな手掛かりは示されませんでした。FRBは経済活動が鈍化する中でも、それを支える景気は持続しており、労働市場は引き続き改善しているとの見方を示しました。株式市場は声明発表の直前に上昇し始め、その後も引き続き小幅に上昇しましたが、再び下落して上昇前の水準に戻りました(差し当たり、FOMCの行動通りです)。

 重要なポイントは市場がなお年内に2回の利上げを見込んでいることで、その時期は1回目が6月(13~14日、有力視されている)か7月(25~26日)、2回目が9月(19~20日)か11月(10月31日~11月1日)と予想されますが、実際の利上げはその時の状況に左右されるでしょう。また、バランスシート政策に関しては、今年終盤に利上げとは別に声明が発表されるとみられ、その時期は11月か12月(12~13日)になると思われます。2017年5月の会合(政策の変更はなし)のFOMC議事録からは、一部のメンバーが利上げに難色を示したことが明らかになりました。市場は引き続き6月の利上げを織り込んでいます。FRBは今年終盤にバランスシートの縮小(債券への償還金再投資の縮小)を開始することも示唆しましたが、詳細は明らかにされませんでした。

●自爆テロと情報漏えい

 世界で起こった出来事を列挙すると、北朝鮮は主要同盟国である中国の意向に反すると思われるミサイル発射実験を行いましたが、失敗しました。韓国は北朝鮮との新たな対話を主張する文在寅氏を新大統領に選出しましたが、北朝鮮がその後もミサイル発射実験を繰り返し行ったことを受けて、米国はミサイル迎撃実験で対抗しました。北朝鮮をめぐる緊張は引き続き高まっています。

 フランス大統領選挙では穏健・独立系のマクロン候補が右派のルペン候補に大差で勝利し(66%)、欧州の国家主義的な動きに当面は歯止めがかかった模様です。フランスの国民議会選挙が6月11日と18日に予定されており、マクロン氏は候補者擁立に取り掛かる必要があります。予想通りの大統領選の結果を受けて、市場はほとんど反応しませんでした。

 石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC諸国は、現在の生産量制限が原油価格を押し上げていないにもかかわらず、原油生産量の削減を2018年3月末まで延長することに合意しましたが、予想されていたほどの措置はとられなかったとして、市場では原油価格が下落しました。

 英国マンチェスターでは、若手アーティスト(アリアナ・グランデ)のコンサート会場で自爆テロが発生し、22人が死亡、59人が重軽傷を負いました。このテロの実行犯は英国生まれで、国内で感化されて過激化した「ホームグロウン・テロリスト」と報じられています。この事件に関して、英国が米国に提供した情報が漏えいしたことから、英米間の政治問題が生じており、英国のメイ首相はトランプ大統領に対して正式に抗議し、トランプ大統領は情報漏えいの捜査を指示しました(米国は自身が漏えい元であることを認めています)。情報「漏えい」が発覚したのは、イスラエルが米国に提供したとされる情報をトランプ大統領がロシアにリークしたのに続き、今回で2回目です。

 エジプトでは、キリスト教徒が乗ったバスが修道院に向かう途中で襲撃され、29人が死亡しました。その報復として、エジプトはリビアにある過激派組織の拠点を空爆しました。また、アフガニスタン(カブールの外国大使館の近く)で爆発があり、少なくとも80人が死亡し、300人以上が重軽傷を負いました。

※「“対立”に屈せず、未踏の領域に力強くまい進 (3)」に続く。

株探ニュース

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