S&P500 月例レポート ― “対立”に屈せず、未踏の領域に力強くまい進 (1) ―

配信元:株探
著者:Kabutan
●S&P500指数:トランプ政権の真価が問われる6月

 5月の市場はさまざまな出来事がありました。S&P500指数が終値での最高値を7回更新し、世界の政局は対立的姿勢を強め、欧州や中東ではテロが相次ぎ、アジアでは数発のミサイルが発射され、米国からも迎撃ミサイルが1発、発射されました。恐怖感がないわけではありませんが、こうした情勢に屈することはなく、市場ではVIX恐怖指数に恐怖心は全く見られません。同指数は2006年12月(9.39)以来の低水準となる9.56と、ピークとなった2008年10月の89.53(あるいは2015年8月の53.89や2016年11月の米大統領選当時の23.01)と比べて大幅に低下しています。

 しかし、誰かが言ったように「恐怖そのもの以外に恐れるものはない」のです。とはいえ、ヘッジを全くせずにコールオプションを売る時はやはり緊張しますし、音楽配信サービスのSpotifyが2018年第1四半期に予定している、引受業務を伴わない株式の直接上場に、証券会社や銀行のCFOは恐々としていることでしょう。

 もっと身近な話をすると、市場で確実にリターンを得られるのはS&P500指数に限ったことではなく、米国以外の世界各地の市場が2017年に入って資金流入に下支えされて上昇を続けており、大統領選以降の上昇率は米国に並ぶ水準まできています。ただし、過去3年のリターンで見ると米国の強さは明らかで、米国市場の2桁の上昇率に対し、世界の市場のリターンは依然としてマイナス圏にあります。しかし、これは過去(少なくとも5月31日の取引終了時点)のことであり、過去に戻って買うことはできません。

 上昇してはいるものの最高値に届かないのがダウ工業株30種平均(NYダウ)で、本稿執筆時点における終値ベースでの過去最高値は2017年3月1日であり、Goldman Sachs(GS)とInternational Business Machines(IBM)という比重の大きい2社が足かせとなっています。もちろん、Apple(AAPL)の最高値更新は指数に寄与していますし、同社は時価総額で世界最大の上場企業ですが、NYダウは株価加重平均型の指数のため、Goldman(3MやBoeingなども)の方がAppleよりも指数に対する影響力が大きいのです。もしAppleが株式分割を行っていなければ状況は大きく違っていたかもしれませんが、その場合、同社株がNYダウにどのように組み入れられていたか(仕組み上)は、よく分かりません。

 いずれにしても、世界でさまざまな出来事が続いているにもかかわらず、投資家にとって5月は株式でリターンを上げることができた月であり、目下の最大の疑問は、こうしたずれがいつまで続くのかということです。その答えは永遠かもしれませんが、そうは思いません。6月は、各種法案に対するトランプ政権の真価が問われる月になるでしょう。特に税制改革は、(長らく調整がない)市場の下支え要因となり得る重要な問題です。医療保険制度改革改廃法案は6月に上院で採決が行われる予定ですが成立のめどは立っておらず、また一度導入した保険制度を撤廃するというのは、現在の米国で正直な政治家を見つける以上にまれなケースとなるでしょう。現時点において、保険制度の「撤廃と置換」は「調整と先送り」の様相を呈していますが、市場は予測が難しく、政治も不透明感が一段と高まっています。

 また、6月の注目イベントとして13~14日の連邦公開市場委員会(FOMC)もあり、今のところ連邦準備制度理事会(FRB)は7月25~26日の会合を待たずに利上げを行うとみられています。利上げの有無にかかわらず、今年に入って金利はほとんど上昇しておらず、自社株買いによる1株当たり利益(EPS)の押し上げ効果は薄れつつありますが、金利費用の低下がEPSを押し上げています。

【押さえておくべき5月相場の2つの重要ポイント】

◆政局の対立とテロが続く中、S&P500指数は終値での最高値を7回更新

◆VIX恐怖指数は2006年12月以来の低水準に

◆過剰な自社株買いによる株数減少のペースは第1四半期に大幅に鈍化し、EPSへの押し上げ効果は過去2年間で最低に

◆5月の概況

・S&P500指数は5月に1.16%(配当込みのトータルリターンは1.41%)上昇し、5月だけで終値での最高値を7回更新。年初来の上昇率は7.73%(同8.66%)、過去1年間のリターンは15.01%(同17.47%)。

・2016年11月8日の米大統領選挙以降では12.72%(同14.08%)の上昇となり、終値で最高値を28回更新(そのうち20回は2017年)。

・米国以外の市場は引き続き米国市場をアウトパフォームしており、大統領選以降の上昇率は米国市場に並ぶ水準に(米国市場は12.97%、米国以外の市場は13.01%)。ただし、過去3年間のリターンで見ると米国市場の24.13%上昇に対して米国以外の市場は1.35%下落。

※「“対立”に屈せず、未踏の領域に力強くまい進 (2)」に続く。

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