今秋は10月の米消費者物価指数(CPI)の弱い結果が、一気にドル売りを誘う激しい展開となりました。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ姿勢に大きな影響を与えるということで、発表前から大きな注目を集めていた同指標。前年比は+7.7%と9月の+8.2%から大きく鈍化。市場予想の+7.9%も下回りました。CPI前年比が7%台となるのは今年2月分以来となります。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア部分は前年比+6.3%となりました。9月の6.6%から鈍化し、市場予想の6.5%も下回っています。CPIは総合が6月に9.1%を付けた後、鈍化傾向を続けていましたが、その主要因はNY原油価格の上昇一服を受けたエネルギー価格の伸び鈍化にあり、コアに関しては前回の+6.6%が1982年8月以来の伸びを記録するなど、上昇基調が続いていました。今回はコアも鈍化しており、物価上昇の一服感が強まっています。 今回の米CPIを受けて12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げについて、0.5%利上げ見通しが一気に強まっています。9月のFOMCで年内1.25%の利上げを行う見通しが中心シナリオとして示されたことで、11月の0.75%と12月の0.5%を見込む動きが広がっていましたが、その後発表された米経済指標が基本的に強く、9月のCPIの強さもあって、先月には0.75%利上げ見通しが、短期金利先物市場動向から見た利上げ割合を示すCME FedWatchで8割を超えるところまで強まる場面が見られました。その後は期待が少し落ち着き、0.5%と0.75%の期待が拮抗する状況に。今月の米FOMCでの声明やパウエル議長会見で12月の利上げ幅縮小の可能性が示されたこともあり、0.5%利上げ見通しが若干優勢となったものの、60%には届かず、40%以上が0.75%という状況で米CPIを迎えました。米CPI後は0.5%見通しが85%を超えてきており、織り込みが進む展開となっています。 こうした流れがさらに強まるか、再び0.75%利上げ見通しが広がってくるのか、そのカギとなるのが米国の経済状況です。 4日に発表された10月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を上回る伸びを見せ、前回値も上方修正される力強いものになる一方、失業率が予想外に悪化、失業率計算の基となる家計調査ベースの就労者数は前月比で減少するというまちまちな結果となりました。雇用状況は米国のGDPの約7割に当たる個人消費などに強い影響を与えてきます。 そうした中、来週は米国の個人消費動向をまともに示す10月の米小売売上高が発表されます。市場予想は前月比+0.9%と9月の横ばいから上昇見込み。6月以来の伸び率が期待されています。サプライチェーンの混乱緩和を受けて新車販売が戻ってきており、10月の米新車販売台数が前年比+12.1%(JDパワー調査)と伸びていることが全体を支えていると見られます。もっとも自動車を除くコアも前月比+0.5%と9月の+0.1%から伸びており、6月以来の伸び率を示すなど、個人消費は全般に堅調と見られます。 個人消費に影響を与える雇用市場動向に警戒感が出ている中で、小売売上の力強い結果は、FOMCでの大幅利上げ見通しを支えてくる可能性があります。米CPI後に一気に強まった0.5%利上げ期待が若干後退し、0.75%利上げ期待が回復するような動きが見られると、ドルの買い戻しにつながると思われます。 逆に弱めに出た場合は、ドル売りが加速する可能性も。小売売上高はそれなりにぶれのある指標だけに、前月並みに弱めの数字が出る可能性が十分にあります。この場合は先週後半のドル売り基調が強まる可能性がありますので要注意です。 指標以外の材料としては、米FOMCでの今後の利上げ姿勢への注目が集まっていることもあり、FOMC関係者発言が注目されるところです。複数の地区連銀総裁による講演予定などが入っており、注意したいところです。そうした中、15日には今年7月に就任したところのマイケル・バーFRB副議長が上院銀行委員会で証言を行う予定です。就任してそれほど時間がたっていないことや、金融規制担当という立場などもあって、タカ派・ハト派の色がそれほどついていない副議長。就任後の講演を見ると「過度の利上げリスクよりも、インフレ定着リスクの方が懸念される」など、若干タカ派的な発言内容も見えますが、発言自体は景気鈍化懸念がそれほど大きく広がる前、9月初めごろのものです。今回の議会証言で何らかの姿勢が見られると、タカ派ハト派の印象が生じ、今後の利上げ予想にも影響が出てきそうです。ただ、担当分野である暗号資産や金融機関向けストレステストなどの話題のみとなる可能性があり、金融政策については目立った言及がない可能性があります。 MINKABU PRESS 山岡和雅
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