【米利下げ着手観測が強まるなか急伸したNY金市場の背景】 NY金4月限は今月4日の取引で急伸し、昨年12月28日に付けた高値2103. 3ドルを突破。その後も堅調地合いを維持し、5日は2150ドルを上抜いたうえ、続 く6日も続伸し2160.7ドルまで値を切り上げている。4月限の一代の高値は昨年 12月4日に付けた2171.5ドルだが、この水準に迫る動きを見せている。 史上最高値までNY金が浮上しているのは米国の利下げ観測が強まったことが主な理 由と見られる。米経済指標は弱気な内容が目立つが、5日に発表された2月の米ISM 非製造業景気指数は予想以下となる52.6まで低下し拡大と縮小の分岐点となる50 に迫る動きを見せたほか、1月耐久財受注の確報値は速報値から下方修正、1月製造業 新規受注も事前予想を大幅に下回るなど、軒並み弱気な内容となった。 6日に発表された1月卸売在庫改定値が速報値から下方修正されたことに加え、1月 JOLTS求人件数は12月の888.9万件を下回る886.3万件にとどまった。 弱気な経済活動の様子に加え、求人件数の縮小が示されたことは強気な雇用情勢によっ て支えられてきた米国のインフレが緩和に向かう可能性が高まっていることを窺わせる と同時に、利下げ着手観測を後押しする要因となる。 なお、同日に行われたパウエル連邦準備理事会(FRB)議長による米議会下院での 証言で同議長は今年のある時点での利下げ着手について言及すると同時に、その時期に ついての発言は行わず利下げ着手に慎重な姿勢を改めて示したが、これについてはある 程度、市場に織り込まれていたため大きな反応は見られていない。 NY金市場がFRBによる利下げ着手見通しを手掛かりにして急伸したのは昨年末以 降となるが、昨年末には2024年内の早い段階での利下げを先取りする形で急伸した ものの、米国の経済指標や雇用情勢に強気な内容が続き利下げ着手の時期が当時想定さ れていたよりもずれ込むとの認識が広がるなかNY金は2050ドルでこう着する状態 が続いた。 このこう着の時期にはファンド筋を含む大口投機家の買い越し数の整理が進められて いたが、ここにきてより現実的な利下げ着手観測が浮上したことにより、すでに買い玉 の整理を終えていたファンド筋の買いが一気に膨らんだ可能性がある。なお、米国商品 先物取引委員会(CFTC)によると、昨年12月下旬時点のファンド筋を含む大口投 機家の買い越し数は20万枚程度となっていたが、2月27日時点では14万枚程度に とどまっており、12月下旬時点の水準まで買戻しが進むのであればあと6万枚程度の 買いの余力が残っていることが示されている。 19〜20日にかけ米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されるが、今回のFO MCでは利下げ着手が発表される可能性は低いが6月FOMCでの利下げ着手が有力視 されている。また3月FOMCで注目されるのは、金融当局によって公表される経済見 通しであり、年内の利下げ見通し回数がどの程度となるかによって、利下げ着手の時期 に対する思惑が高まるとことになりそうだ。 なお、NY金市場を押し上げている他の要因として地政学不安、高金利環境の長期化 に伴う米財政悪化が挙げられるが、世界的にインフレ高止まりとなるなかで、物である ためインフレヘッジとしての役割が意識されていることも金価格を押し上げる一因にな っていると見られる。 そのため、利下げ着手の時期に対する見通しが高まり利下げ着手を市場が織り込んだ としても、コロナ禍以降のインフレ率の上昇を金価格に反映させた場合、利下げ着手、 織り込み後の反動も限られたものとなりそうだ。 MINKABU PRESS
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