【NY金市場の上昇基調は短命に終わる可能性も】 NY金2月限は10日に地合いを引き締め、36ドル超の上げ幅を記録し2720ド ル台まで浮上。米財務長官に著名投資家のスコット・ベッセント氏が指名されたことを 受けて米中貿易戦争に対する警戒感が後退し急落した11月25日以来の高値まで浮上 している。 大幅高の背景として挙げられるのが、各国の利下げ期待だ。今週は12日に欧州中央 銀行(ECB)理事会が行われるが、今回の定例理事会では0.25%の利下げが見込 まれている。 11月のユーロ圏総合PMI(購買担当者景気指数)は前月の50.0から48.3 に低下して好不況の境目となる50を再び割り込んだ。また、10月のユーロ圏小売売 上高指数は4ヵ月ぶりに落ち込み前月比で−0.5%を記録している。 冴えない欧州の経済指標の発表に加え、トランプ政権の発足を1月に控えるなかでE CBは景気刺激策として12月定例理事会では利下げを決定することが予想される。 17〜18日は米公開市場委員会(FOMC)が実施されるなか、今回のFOMCで は追加利下げが実施されるとの予測する比率が70%を超えるなど、米追加利下げが既 定路線となっていることも、金市場における価格押し上げ要因となっている。 これらの金融政策に加え、中東情勢不安が高まっていることも安全資産としての金を 求める動きを刺激する要因となっている。シリアでアサド政権が崩壊したことに加え、 これに伴うイスラエルによるシリア攻撃の可能性も浮上しているが、中東情勢不安は金 市場においては安全資産を求める動きに繋がり得る。 逃避買いとしての金需要の動向を示すSPDRの金ETF残高は11月26日に87 9.41トンを記録した後に縮小し、12月10日時点では870.79トンとなって いるが、今後、ETF残高が増加傾向を強めるようであれば、追加利下げ観測と相まっ て金価格を押し上げる要因になってくる可能性がある。 ただ、目先は11月25日に付けた高値2748ドル前後が抵抗線になってきそう だ。トランプ新政権誕生後のインフレ率の上昇が懸念されるからだ。 トランプ氏は大統領選で中国を始めとする他国からの輸入品に対する関税引き上げを 公約として掲げている。同氏が輸入関税の引き上げを公約として掲げているのは、貿易 赤字の縮小を図る考えがあると見られる。 そのため、実際に輸入関税が引き上げられるようであれば物価の上昇が促される一方 で貿易赤字の縮小が促されて米経済成長の後押し要因になってくる可能性がある。ま た、トランプ氏は大規模減税の可能性も示しているが、大規模減税の実行に至った場合 には、個人消費が活発化し物価には更に上昇圧力がかかる可能性が高まるだろう。 これまでにも触れてきたように、輸入量の減少を国内生産でまかなう動きが高まれば 労働力を求める動きが活発化し、これが雇用情勢の引き締まりを促すことも見込まれる だけに、連邦準備理事会(FRB)による追加利下げも来年早々には打ち止めとなる可 能性が想定される。 その一方で注意したいのが再度、利上げに向かう可能性も出てきている点だ。FRB は金利を中立的にするのが目標、としており、現時点での政策金利は中立金利を上回っ ているとの見方を示している。そのため、物価の上昇局面が見られたとしても利上げに は慎重な姿勢を取るとみられる。トランプ政権発足後は時間をかけながら物価は上昇に 向かうと予想される。 短期的には米国内外での利下げ観測が金市場の買い支援要因となり2月限は11月 25日の高値2748ドルを目指す足取りが想定されるが、12月FOMCで追加利下 げが決定されると材料織り込み感に加え将来的な米インフレ率の上昇観測や雇用情勢引 き締まり観測が重石となり、地合いに変化が生じる可能性に注意しておきたい。 MINKABU PRESS
みんなの株式をはじめ、株探、みんかぶFX、みんなの仮想通貨など金融系メディアの 記事の執筆を行う編集部です。 投資に役立つニュースやコラム、投資初心者向けコン テンツなど幅広く提供しています。