プラチナの現物相場は8月、米国の各国に対する相互関税が発動し、景気の先行き不 透明感が残ることが上値を抑える要因になった。ただ8月の欧米の製造業購買担当者景 気指数(PMI)が節目となる50を回復したことや米連邦準備理事会(FRB)の利 下げ見通しが下支えとなり、9月に入ると、買い戻し主導で上昇し、7月23日以来の 高値1424ドル台を付けた。8月の米雇用統計や米消費者物価指数(CPI)が当面 の焦点だが、16〜17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では25ベーシスポイ ント(bp)利下げが見込まれている。米FRBの独立性に対する懸念もあり、ドル安 が続くと、プラチナの支援要因になるとみられる。ただ米国の関税の影響で経済成長が 鈍化するとみられており、高値での買いが見送られる可能性がある。 米国は日本、欧州連合(EU)、韓国との関税交渉で合意に達し、8月7日に相互関 税が発動した。当初の関税率から引き下げられ、貿易に対する楽観的な見方が出たこと は下支え要因である。他の諸国は米国が一方的に関税率を通知した。ただメキシコとの 貿易協定は90日間延長、中国との関税休戦は3カ月延長、ロシア産原油の購入停止に 応じなかったインドは50%の関税が27日に発動した。ブラジルの関税も50%に引 き上げられており、先行き不透明感が残る。一方、上海協力機構(SCO)首脳会議で は、中国の習近平国家主席が多国間貿易体制を守るべきと主張し、米国第一主義を掲げ るトランプ米大統領を非難した。同主席はインドのモディ首相やロシアのプーチン大統 領と会談し、結束を図った。またブラジルのルラ大統領は、米国の通商政策について協 議するため、8日にBRICS首脳のオンライン会議を開催する。さらに米連邦高裁 は、国際緊急経済権限法(IEEPA)を用いる米大統領の関税は違法との判決を下し た。最高裁への上訴に対応するため、10月14日まで関税を維持することを認めてお り、裁判の行方と米政権の対応も確認したい。 【欧米の製造業PMIは堅調も関税の影響を確認】 8月の米製造業購買担当者景気指数(PMI)は53.3と前月の49.8から大幅 に上昇した。節目となる50を回復し、2022年5月以来の高水準となった。新規受 注指数が18カ月ぶりの大幅な伸びとなった。またユーロ圏の製造業PMI改定値は 50.7と前月の49.8から上昇し、3年ぶりに拡大局面に入った。内需と生産が拡 大した。ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は、米国と欧州連合(EU)の貿易協定 は想定から大きくかけ離れていないとの見方を示しており、楽観的な見方が出ている。 ただ米国とEUの合意は大枠であり、今後の交渉の行方を確認したい。一方、中国の製 造業PMIはまちまちの内容となった。中国国家統計局のPMIは49.4と節目とな る50を5カ月連続で下回ったが、レーティングドッグ/S&PグローバルのPMIは 50.5と前月の49.5から上昇し、5カ月ぶりの高水準となった。内需の弱さや利 益回復の鈍さなどが指摘された。関税発動の影響を各国の経済指標で引き続き確認した い。 【プラチナETFの利食い売りが続く】 プラチナETF(上場投信)残高は8月29日の米国で35.83トン(7月末 37.26トン)、英国で11.76トン(同10.97トン)、南アで8.14トン (同8.71トン)となった。合計で1.21トン減少し、戻り場面で投資資金が流出 した。米国の関税発動による景気減速に対する警戒感が強い。ただ供給不足見通しでフ ァンダメンタルズは強気であり、米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが決定さ れると、投資資金が戻る可能性もある。一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建 玉明細報告によると、8月26日時点のニューヨーク・プラチナの大口投機家の買い越 しは1万5786枚(前週1万5050枚)となった。前週分が5月13日以来の低水 準となったが、新規買い、買い戻しが入って買い越し幅を拡大した。 (MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行) *3日、Yahoo!ファイナンスに掲載された記事を再配信します。
みんなの株式をはじめ、株探、みんかぶFX、みんなの仮想通貨など金融系メディアの 記事の執筆を行う編集部です。 投資に役立つニュースやコラム、投資初心者向けコン テンツなど幅広く提供しています。