金は調整後の押し目を買われる、米政府機関再開期待で利下げ観測が支援

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
 金は10月、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ見通しや米政府機関の一部閉鎖、
米中の貿易摩擦に対する懸念を受けて内外で史上最高値を更新したのち、ドル安一服を
きっかけに利食い売り主導の調整局面を迎えた。その後は、米中の通商合意見通しや米
連邦公開市場委員会(FOMC)後のドル高が圧迫要因になったが、通商合意をきっか
けに買い戻し主導で上昇した。ただ米金融当局者の発言を受けて12月の利下げ観測が
後退したことに上値を抑えられた。一方、11月に入り、米政府機関の一部閉鎖が過去
最長となったが、4日のバージニア州とニュージャージー州の知事選とニューヨーク市
長選で民主党が全勝するなか、協議が進み、米上院で10日につなぎ予算案が可決され
た。米政府機関の再開期待から米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測が高まると、
押し目を買われた。現物相場は史上最高値4379.82ドルを付けたのち、調整局面
を迎えたが、3887.93ドルで下げ止まると、4100ドル台を回復した。JPX
金先限は上場来高値2万2288円を付けたのち、1万9446円で押し目を買われ
た。
 価格高騰による宝飾需要の減少が上値を抑える要因だが、BRICSなど新興国を中
心にドル離れの動きがみられることや中央銀行の買い、インフレ懸念が残ることなどが
支援要因である。通貨の価値下落に対するヘッジとして、金やビットコインなどに資金
を移す戦略として、ディベースメント取引が指摘された。トランプ大統領は、暗号資産
に関する大統領令やステーブルコインの普及を目指すジーニアス法案に署名し、暗号資
産も投資家の関心を集めている。ただビットコインは10月10日、米大統領の対中追
加関税などの発表をきっかけに200億ドルを超える過去最大規模のロスカット(強制
清算)が発生し、退場するファンドも目立った。また地政学的リスクや米国の関税措置
による先行き不透明感も金を安全資産して買う要因となっている。最上最高値を更新す
れば5000ドルを目指すとの見方も出ている。一方、米金融大手モルガン・スタンレ
ーとゴールドマン・サックスの最高経営責任者(CEO)は、人工知能(AI)ブーム
を受けてハイテク株主導で株高が進んだが、調整局面の可能性を警告した。ハイテク株
が調整局面を迎えると、金が逃避先として買われるとみられる。ただ米株式市場全体が
弱気に転じると、換金売りが警戒される。
【米労働市場の大幅な減速や消費者心理の悪化を懸念】
 10月28〜29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(F
F)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き下げ、3.75〜4.00%とすること
を決定した。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は会見で「12月会合での利下
げ決定は既定路線ではない」と述べ、利下げ観測が後退した。米政府機関の一部閉鎖を
受けて米雇用統計など各省庁の経済指標の発表が延期され、金融当局者の判断が難しく
なっていることも利下げ見送りの一因になるとみられている。一方、再就職あっせん会
社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、10月の米企業の人員削減
数は前月比183%増の15万3074人となり、10月として22年ぶりの高水準と
なった。コスト削減と人工知能(AI)導入を進める企業の動きを受けて急増した。ま
た11月の米ミシガン大消費者信頼感指数速報値は50.3と10月確報値の53.6
から低下し、約3年半ぶりの低水準となった。米政府機関閉鎖が過去最長を更新し、経
済的な影響が懸念された。事前予想は53.2。1年先の期待インフレは4.7%と前
月の4.6%から上昇した。米労働市場の大幅な減速や消費者心理の悪化が懸念された
ことで米FRBの12月利下げ観測が戻った。
【第3四半期の金需要は四半期として過去最高】
 ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の四半期報告書「ゴールド・ディマン
ド・トレンズ」によると、第3四半期の金需要は前年同期比3%増の1313.1トン
となり、四半期として過去最高を記録した。投資需要で金ETF(上場投信)が同
134%増の221.7トン、地金と金貨が同17%増の315.5トンとなった。中
央銀行の買いは前四半期比28%増の219.9トンとなったが、3四半期では634
トンと前年の724トンを下回った。一方、宝飾需要は前年同期比19%減の
371.3トンとなった。工業用需要は同2%減の81.7トン。人工知能(AI)向
けの需要が増加したが、米国の関税や価格高騰に相殺された。
 世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、11月
10日に1042.06トン(9月末1012.88トン)となった。調整局面を迎え
るなか、安値拾いの買いが入った。一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明
細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは9月23日時点で
26万6749枚(前週26万6410枚)となり、2月18日以来の高水準となっ
た。10月に入ってから米政府機関閉鎖を受けて発表が延期されている。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
*12日、Yahoo!ファイナンスに掲載された記事を再配信します。


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