[Vol.1881] 世界分裂:超長期視点で継続見通し

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。70.22ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。2,639.34ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年05月限は17,505元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年02月限は546.8元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1683.29ドル(前日比8.09ドル拡大)、円建てで8,599円(前日比100円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(12月26日 大引け時点 6番限)
13,378円/g
白金 4,779円/g
ゴム 369.6円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,960円/mmBtu(25年4月限 12月19日17時25分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「世界分裂:超長期視点で継続見通し」
前回は、「中央銀行:新興国中心の買いは続くだろう」として、中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(2010年~)を確認しました。

今回は、「世界分裂:超長期視点で継続見通し」として、自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945~2023年)を確認します。

中央銀行の年間ベースの買い越しが連続し始めたのは2010年でした。ウクライナ戦争が勃発する10年以上前から、中央銀行たちの買いが目立ち始めていたのです。

中央銀行たちはなぜ、超長期にわたって買い続けているのか、その根本原因は何なのか、その根本原因が別の経路で金(ゴールド)相場を押し上げていないか、などについて確認するためには、視点を超長期に移し、同時に世界を俯瞰(ふかん:鳥のように空から広い範囲を一望する)する必要があります。

V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる情報を数値化した自由民主主義指数に注目します。

民主主義の根幹に関わる公正な選挙、表現の自由、法の支配が守られているかなどを数値化したこの指数は、0と1の間で決定し、0に接近すればするほど自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。

以下の図のとおり、第2次世界大戦終結後、0.6以上の比較的高い値の国の数の増加と、0.4以下の比較的低い値の国の数の減少が目立ち始めました。冷戦終結後、この傾向はさらに強まりました。民主主義を掲げ、建設的な話し合いを経て世界が平和に向かう機運が高まった時代です。

こうした動きより、同指数はおおむね世界全体の民主主義の動向を反映していると言えます。

2010年以降の動きは、世界の民主主義の行き詰まりや、民主主義を良いと考える西側諸国の影響力の低下、非西側諸国の相対的な影響力上昇、ひいては世界分断・分裂の深化が進行してきたことを示唆していると言えます。

世界分裂は、戦争や資源国の出し渋りの直接的なきっかけになり得ます。また、世界分裂が目立つことで、自国第一主義が目立ちやすくなります。その結果、資源を武器として利用する国が増えやすくなります。

実際に今まさに、人為的な「減産」は原油で、政治的意図を持った「輸出制限」は小麦などの農産物で断続的に行われています。こうした主要な生産国による「資源の武器利用」は、コモディティ(国際商品)の需給を引き締める主な要因になっています。それが一因で、世界規模のインフレが継続しています。

民主主義行き詰まり、戦争勃発、資源出し渋り、高インフレなどの長期視点の事象は、世界分裂がもたらしていると言えます。そしてその世界分裂の一因に、「感情優先、建設的な議論なし」が許され、民意が濁流と化す場になり得るSNSの負の側面、行き過ぎた環境配慮と人権配慮で非西側諸国を追い込んだESGの負の側面が挙げられます。

SNSとESGという、人類が良かれと思って生み出した技術や考え方がかえってあだになる、「見えないジレンマ」が生じている最中は、金(ゴールド)相場に複数の側面から上昇圧力がかかり続ける可能性があります。

図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945~2023年)
図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945~2023年)
出所:V-Dem研究所のデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。