「相場変動の大きさの予想」を数値化
プットオプションがなぜ10倍、50倍、70倍にもなりうるのか、この爆発力の根拠を知ることで、プットオプションを手掛けるタイミングを計ることができます。今回はプットオプションの爆発力の源の一つ、インプライドボラティリティー(=以下IVと表記)が急上昇する性質を見ていきましょう。2018年1月下旬、日経平均株価が22,000円から大相場を演じて24,000円に到達した場面を見てみましょう。
株を買い持ちしている人は、わが世の春を謳歌していました。
こんな時、例えば3,000円も下のP21000のオプションを買って利益になると思う人がどれくらいいるでしょうか。
P21000のプットオプションを買うということは、満期日においては日経平均が大きく下落して21,000円を割り込んだら、その割り込んだ分をすべて売り手からもらえるというルールですから、買い手としては3,000円も下落するという可能性が低いと思うならば、そんな商品にお金を払うことはしないでしょう。
実際、1月23日に終値で日経225miniが24,135円を付けた日のプットオプション(満期日2月9日)の価格は図表1の通りです。
図表1 2月限プットオプション価格(1月23日時点)
24,135円から約1,600円下のP22500がわずか18円。
約2,000円下のP22000あたりではわずか7円。
3,000円も下のP21000は2円です。
ほとんど誰もこのあたりのオプションを買って利益になるとは思っていないから安いわけです。
言い換えれば、満期日まであと17日でそんな下落があるとほとんど誰も思っていないということです。
図表2 2月限プットオプション価格(2月6日時点)
ところが、2月上旬にまさかが起こりました。
24,000円を超えた1月23日からなんと2,620円も下落し、2月6日の日経225miniの終値は21,515円でした。
満期まであと3日しかないにもかかわらず、まだ500円も離れているP21000は200円もの価格がついています。
1月23日時点のなんと100倍です。
当初2,500円以上も下だったP21500がもはやアット・ザ・マネー(原資産価格と権利行使価格が等しい状態)となり、残り3日にも関わらず400円もの価格となりました。(図表2)
図表3 5月限プットオプション価格(5月8日時点)
参考までに相場が落ち着きを取り戻した5月上旬の満期まで残り3日となったプットオプション価格と比較してみましょう。
2月限のオプションの値段の高さがおわかりいただけるかと思います。
5月8日の日経225miniは22,520円で、2月とは原資産の水準が少々異なりますが、ちょうどアット・ザ・マネーのP22500が95円、500円下のP22000はわずか10円です。(図表3)
このように、相場変動が大きいか小さいかの市場参加者の予想次第でオプション価格が高くなったり安くなったりするわけです。
相場変動の大きさの予想を数値化したのがIVということです。
相場変動が大きくなると予想することは、最終的な受け渡し額が大きくなる可能性が高まることを意味し、このような判断をする人が多くなれば、結果的にオプション価格が上昇することになるのです。
このような相場変動が大きくなるという予想によってオプション価格が上昇したことをもって、IVが上昇したと説明するのです。
IVが跳ね上がる相場でプットオプションは大きく上昇
IVは相場が荒れると上がります。市場がびっくりすると上がるというわけです。恐怖指数と呼ばれることもあるように、相場が大きく下落するときに(びっくりして)値が跳ね上がる性質があります。ただ原資産が下げるだけではだめで、びっくりするようなことが起きて大きく速く下落したときにIVは跳ね上がるのです。
まさにこの性質、すなわち相場は穏やかだと市場が予想していたとき(低IV)、その予想に反し相場が大崩れし、びっくりして相場が穏やかではなくなり、さらに相場が大きく動くと市場参加者の誰もが(いや応なく)思い始める(IVの高騰)のを狙うのです。
実際、図表1、図表2にあるように、P21000はIV=25.15だったのが、52.91まで100%以上の上昇を見せています。2円で買ったものが200円。実に100倍です。これは前回説明した大きく変化したデルタからの価格上昇による影響に加え、市場がびっくりしてIVが急上昇したことによる価格上昇なのです。
P21000 2,000円 ⇒ 200,000円(利益198,000円)
価格変化の要因 = デルタの変化による価格上昇 + IVの上昇による価格上昇
残念なことに、このIVの上昇がいつ起こるのか、どれくらい上昇するのか、これは誰にもわかりません。相場の大崩れが事前にわかるなら、誰もびっくりしないのでIVは上がりません。どれくらいIVが上昇するのかも正確にはわかりません。ただ、過去のデータを見るとIVがおおむねどのような動きをするかを知ることはできます。
図表4 日経平均VIの月足チャート
図表4は過去10年間の日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)の月足チャートです。
オプションは権利行使価格ごとにそれぞれ異なるIVの値を持っていますが、日経225オプションの各銘柄のIVを指数化したものが日経平均VIであることはすでに説明しました。
2008年のリーマン・ショックの時、90超を記録しています。
2015年のチャイナショックの時は50をうかがうような動きをしました。
2018年2月上旬も前日比で100%の上昇があった日がありました。
このIVが跳ね上がるような相場のとき、デルタとIVでオプション価格は何倍、何十倍にもなりうるのです。
すでに説明したようにIVは相場の上昇で緩やかに低下し、大暴落で急上昇します。どんなに下げても12~15あたり。よって、IVが低めの15程度のとき、ちょうど相場天井付近から一気に大きく下落するタイミングでIVの上昇幅を最大にできるのです。相場の大変動によりデルタも大きく変化することもあいまって、プットオプションが10倍にも50倍、100倍にもなるというわけです。
このような視点から、 プットオプションの買い戦略(その2)では以下の基準でエントリーするアイデアを提案した次第です。
IVがエントリー時点から100%も上昇するような相場に出会えば、テンバガーどころではありません。めったにそういう場面に遭遇することはないかもしれませんが、低IV+相場の天井を示唆しているような場面を見つけたら、失ってもいい金額のプットオプションを買ってみると、望外の利益が得られるかもしれません。
Weeklyオプションを利用した実践戦略
ただ、この基準を用いる場合に少々厄介なのが、①②のタイミングが来た時、まだ満期まで相当程度日数が残っているとオプション価格はそれなりの価格を持っており、わずか10円とか20円で買えるオプションというのは今の水準からはるかに遠いアウト・オブ・ザ・マネー(権利行使すると損失が発生する状態)のオプションしかないということです。たまたま期近のオプションの満期日が1週間~10日程度の月末や月初にエントリーフラグが立てばいいのですが、そんなにうまくいくとも限りません。そこで、流動性の問題も改善しつつあるWeeklyオプションを利用することを考えてみましょう。これならば、上記基準①②を満たし、満期まで1週間~10日程度のオプションを「常に」利用することが可能となり、残存日数が少ないためにオプション価格も相当にリーズナブルなのです。
日経平均VIが15を割り込んでいるタイミングで、天井を示唆したときにエントリーするというルールで、今年の5月以降でタイミングを計りながら検証してみましょう。(図表5)
満期まで残り1週間前後の銘柄で、50,000円程度の投資を考えます。100,000円以上の利益が出たところで決済し、その利益が出なければ満期までHOLDします。なお、検証上、途中決済の場合は理論値によります。(プットコールパリティにより計算)
図表5 日経225mini直近限月、日経平均VIの推移と投資戦略のシミュレーション結果
②と④は日経平均の下落にIVの上昇が加わり、反対売買により大きな利益となりました。①⑤はほぼ満期までHOLDした結果、利益となりました(下落した分デルタの変化による利益)。③は負けです。
このように、IVが低く、相場が天井を示唆するタイミングで短期的にWeeklyオプションを利用して数万円で戦うというのもなかなか面白い投資戦略ではないでしょうか。オプションを利用する最大のメリットは、損失限定であること、そして損失限定であるがゆえに、ドンと構えて多少のノイズ(逆行)をやりすごせることです。そのためフライング気味に逆張りエントリーが可能になります。天井かどうかなんて、その時点ではわかりません。天井になったから天井だったといえるにすぎないのです。先物ショートの場合、エントリーが早すぎると、持ち上げられて損切りした瞬間下げる、ということもよくあります。プットオプションならば、失っても買った時に支払った額までですから、予想通り下落するまでドンと構えて待てばよいのです。
以上、4回にわたって、プットオプションの買い戦略について検討してきました。
個人投資家の皆さんが相場の波に翻弄されることなく戦う一助となれば幸いです。
本コラムは、株式会社大阪取引所が運営する北浜投資塾の「個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座」の内容について
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