とれんど捕物帳 ファンダメンタルズに意識を戻せるか注目も

配信元:みんかぶFX
著者:MINKABU PRESS
 今週は政治相場だったという一言であろう。序盤はイタリア、後半は米通商問題が波乱要因となった。イタリアの政局については、同国のマッタレッラ大統領が「五つ星運動」と「同盟」が財務相に指名したユーロ懐疑派のサボナ氏を拒否した。「ちょっと、マッタレーヤー!」とでも言ったのであろうか。同じフレーズを思い浮かんだ投資家も多かったかもしれない。

 イタリアの大統領は、普段は決定事項を追認するだけで政治的影響力は小さいようだが、首相指名や閣僚任命に関しては強い権限を行使するのだなと驚かされる。ウィキペディアによると、大統領はイタリア議会の上下両院合同会議において、全議員と各州代表による間接投票で選出されるのだそうだ。今回の選挙で敗れた民主党のレンツィ政権時代に誕生した大統領なので、一定の政治的な動きもあったのかもしれない。いずれにしろ、ユーロ懐疑派は受け入れ難いのであろう。

 早ければ7月にも再選挙との観測も流れる中、市場はリスク回避の雰囲気を強めた。なかには事実上のユーロの賛否を問う選挙との指摘も出ている。これらの問題については2016年の仏大統領選で盛り上がったが、結局、マクロン現大統領が勝利し沈静化していた。しかし、常にユーロ圏の潜在的リスクとして残ってはいた。市場もイタリア政治がここまで混迷するとは思っていなかったであろう。不意をつかれた格好で一気にリスク回避に動いたようだ。

 ただ、「五つ星運動」と「同盟」は再度、政権樹立に向けて協議し、コンテ氏がイタリア首相の要請を受託したほか、問題となっていた財務相にエコノミストのトリア氏を指名した。ユーロ懐疑派のサボナ氏は欧州問題担当相に指名される方向。政治相場の特徴ではあるが、市場が事前に警戒感を高めた時は、意外に無難な方向に落ち着くものである。英EU離脱の国民投票や米大統領選など安心していると不意を突かれる。

 そして、米通商問題だが、トランプ政権は、鉄鋼とアルミの輸入に対して、暫定的に関税賦課の適用除外としていたEU、メキシコ、カナダへの関税賦課を実施すると発表した。交渉がうまく行かず実力行使に出たようだ。上記の3ヵ国も報復関税で対抗する姿勢を示している。特にカナダの対応はやや意外だったようだ。

 「明らかにおかしい中国だけにしておいてくれれば良いものを、全世界的に展開しやがって!」と不満が募っている投資家も多いのではと思われる。もちろん、米経済にとってもメリットが大きかったが、世界各国とも米経済に頼り過ぎている面もあるように思われる。少し商慣行を調整したいというトランプ政権の意図も理解できないわけではない。この機に乗じて中国が反米でイニシアティブをとろうとしているようだが、それは本末転倒だろうとも思われる。

 さて来週だが、G7首脳会談のほかは大きなイベントもないようだ。相場の関心がファンダメンタルズに戻るかがポイントの一つのようにも思われる。もし、ファンダメンタルズに戻った場合、ユーロや円を買う材料はあるのであろうか。ユーロは第1四半期の減速から回復の気配がまだ確認できていない。円もインフレが上昇する気配が全く見られない。個人的には予想外の展開ではあるが、米経済の独走という流れは変わりそうにない。

 その場合、ドル高が加速するのかというと疑問点も多い。ユーロはかなり下げ過ぎ感が高まっている。ECBは出口戦略を後退させようという気配はない。また、政治リスクが燻り、円売りを強める状況にもないものと思われる。ドル円が110円台に再び戻れば売りたい実需筋も多そうだ。FRBは今月のFOMCで利上げを実施するであろうが、慎重姿勢をより強調してくる可能性もないわけではない。FOMCメンバーからは「インフレが2%を超えても、短期的であれば許容範囲」との発言が相次いでおり、あと3回の利上げには消極的な印象もある。9月までは利上げを実施するが、12月は見送りたい意向も感じられる。ドルは底堅く推移するものとは思われるが、意外に上値が重くなる局面も想定される。

 ドル円の直近高値は111.40円付近だが、ファンダメンタルズ相場に戻ったとしても、そこまでの戻りは想定できず、せいぜい110円台前半に来ている200日線付近までが来週は限界のようにも思われる。

 来週の想定レンジは108.50~110.50円を想定。スタンスは「中立」。

()は前週 
◆ドル円(USD/JPY) 
中期 上から中立へトレンド変化
短期 ↓↓↓(↓↓)

◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓)

◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓)

◆豪ドル円(AUD/JPY) 
中期 中立継続
短期 ↓(→)

◆ユーロドル(EUR/USD) 
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓↓)

◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓)

minkabu PRESS編集部 野沢卓美 

このニュースの著者

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