ドル円は今週も週足陽線で引けている。これで3週連続での陽線引けとなるが、次第に中味に変化が出てきているように思われる。最初は正常化に向けたFOMCメンバーのタカ派姿勢を見て、ドル円は買い戻しの動きに転じている。 しかし、市場はFOMCメンバーの姿勢に懐疑的な見方を強めていたが、その後の米地区連銀総裁などFOMCメンバーからは、FOMCの決定を追認する発言が多く、市場も少し方向感を迷いを見せていた。 そうこうしているうちに、今週に入るとECBや英中銀、カナダ中銀の各総裁から出口戦略への発言が相次いだことで、各国の国債利回りが一気に上昇し始め、ドル円の重しとなっていた米国債利回りも歩調を合わせて上昇。ドル円も買い戻しを続けている格好となっている。 各国の流れに日銀が完全に取り残されてしまった格好となり、市場には新たに円売りというキーワ-ドが浮上し、ユーロ円やポンド円といったクロス円の急上昇がドル円を支える格好となっている。日本経済にとっては寂しい状況ではあるものの、円安は悪い話ではない。ただ、クロス円にドル円がサポートされるというのはあまり、力強い動きとも言えない。やはり、ドル円がクロス円を持ち上げるようでなくてはならない。 さて、この動きは今後も続くのかという点だが、ユーロ高やポンド高の動きは早晩に一旦止まるのではと見ている。ECBはドラギ総裁の発言を市場は勘違いしているといったけん制を放っていたが、市場は一時的には反応したものの、直ぐに戻し無視した格好となっている。 恐らくECBがこのままユーロ高の進行を許容するとは考えがたい。市場は何事も無く通過してしまったが、イタリアで銀行が2行破綻している。当局の対応が迅速だったことから事なきを得たが、南欧の経済はまだ刺激策を解除する状況にはない。出口戦略への方向感は変えないであろうが、ユーロ高抑制も含めて、慎重な姿勢を強調してくるものと見られる。このままユーロ高が進むとインフレ鈍化圧力となる。 一方、ポンドだが、今週のカーニー英中銀総裁の発言で、早ければ8月にも利上げとの見方が一部で強まっている。インフレは許容範囲上限である3%に迫っており、英中銀も警戒感を強めている様子もうかがえる。 しかし、インフレ以外の足元の経済指標は利上げを正当化していないものと思われる。金曜日に発表になっていた1-3月期の英GDP確報値の中の貯蓄率は1.7%と統計開始以来の最低水準となっていた。賃金の伸びが鈍い中、インフレが急速に進んだことから英消費者も、貯蓄の余裕が無くなっているのではとも見られている。個人消費は改定値から上方修正されたが、10-12月期からは伸びが大きく鈍化していた。英利上げは市場が期待しているほど簡単ではなく、ハードルは低くないものと思われる。8月までにはまだ時間もあることから、賃金や小売などの指標を確認する必要がある。 今週も米株式市場でIT・ハイテク株の調整が強まりドル円を圧迫していたが、IT・ハイテク株については割高感は否めないものの、クラウドや人工知能(AI)、IOTなど、テーマも数多く抱えており、まだ警戒感を強めるまでには至っていないようだ。来月に入ると4-6月期の決算が発表されるが、それを無難に通過すれば再びモメンタムが高まるのではとの期待もあるようだ。これをきっかけに株式市場の調整が強まるとは見ていない。 さて来週だが、ドル円は来週以降、113円台を試しそうな気配も出ている。ただそれにはやはり、予想を上回る強い米経済指標が欲しいところ。来週は米雇用統計をはじめ米経済指標の発表も多く、そのほか、FOMC議事録、そして、FRBが金融政策報告を議会に提出することもあり、重要イベントが多い。それらを受けてドルが復活できるか注目の週となりそうだ。 想定レンジだが111.00~114.00を想定。スタンスはやや強気とする。 ()は前週 ◆ドル円(USD/JPY) 中期 中立継続 短期 ↑↑↑(↑↑) ◆ユーロ円(EUR/JPY) 中期 中立から上へトレンド変化 短期 ↑↑(→) ◆ポンド円(GBP/JPY) 中期 下から上へトレンド変化 短期 ↑↑↑(↓) ◆豪ドル円(AUD/JPY) 中期 中立から上へトレンド変化 短期 ↑↑↑(↑↑↑) ◆ユーロドル(EUR/USD) 中期 中立継続 短期 ↑↑(→) ◆ポンドドル(GBP/USD) 中期 下から中立へトレンド変化 短期 ↑↑(↓↓) (みんかぶ「Klug」 野沢卓美)
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