とれんど捕物帳 あえてハッピーシナリオを描くと

配信元:みんかぶFX
著者:MINKABU PRESS
 200日線は回復できずに終わったのは残念だったが、ドル円はようやく下げ止まってくれたといった印象だ。木曜日に集中した重要イベントを無難に通過したことが安心感を与えたようだ。英総選挙はメイ首相率いる保守党が第1党にはなったものの、単独過半数には及ばなかった。予想はされていたっものの、世論調査の一部には強気な見方もあったっことから、ポンドは急落したものの、他の通貨や株式などには波及しなかった。

 保守党が318議席を獲得したが、下院(定数650議席)の過半数は326議席。ただし、正副議長の3議席と、アイルランドへの帰属を主張して議会に出席しないシンフェイン党(7議席)を除けば、過半数は実質的に321議席となり、3議席の不足に留まっている。メイ首相は北アイルランドの保守政党である民主統一党(DUP)と連立して政権を発足する意向だ。ただ、メイ首相の求心力は当初の思惑とは裏腹に不安定化も予想され、今後の展開に不透明感も出ている。ドルへの売り圧力は若干減ることにはなるのかもしれないが。

 そして、ECB理事会だが、予想通りガイダンスから利下げの可能性を示す文言を削除し、ドラギ総裁の会見でも景気について、これまでの「下振れリスクが残る」から「概ね均衡」に表現を変えている。しかし、「必要なら量的緩和拡大」の表現は温存しており、更に原油安が主因としているが、2019年までのインフレ見通しを下方修正していた。出口戦略に向けて一歩舵を切った格好だが、慎重姿勢は十分に残す内容ではあった。

 正直これが現実であろう。欧州経済をあまり過度に見積もらないほうが無難と思われる。仏大統領選は無難な決着となったものの、今後もドイツ総選挙や、もしかするとイタリアの総選挙が前倒しになる可能性もある。ちょっとした局面の変化で英総選挙のようなケースが発生しないとは限らない。ECB理事会後もユーロは底堅さは堅持しているような動きが見られるものの、まだまだ過大評価は禁物と思われる。

 むしろ政治リスクの後退といえば、米国のほうかもしれない。コミーFBI前長官のロシア疑惑に関する議会証言が行われていたが、コミー氏は、トランプ大統領からは、フリン氏捜査の中止に関して「命令はされていない。要望されただけだ」と述べていた。一方で、トランプ大統領との会話のメモが流失した件については「特別検察官の設置につながると思いメモ流出を望んだ」とも語っている。コミー氏は要望に従わなかったようだが、最高権力者の間接的な言動に官僚が忖度したのかもしれない。どこかの国にも似たような話題があった。

 今回の証言に関しては、”疑わしいものの決定打も無い”といった雰囲気が市場には広がっている。少なくともネガティブな反応はなく、ドル円の買い戻しを最も後押ししたイベントであっただろう。大型減税や規制改革といった市場が待ち望んでいる経済政策に邁進してほしいものである。それが支持率の低いトランプ大統領の唯一の再選への道である。

 そのほか週末に米株式市場で、IT・ハイテク株が一斉売りを浴びせられていた。ドル円が200日線を維持できなかった要因だが、株式市場の大幅調整かと思われた方もいたであろうが、一方で銀行株や産業株が一斉に買われており、ナスダックは急落したが、ダウ平均は上昇して終わる対照的な動きとなった。

 同様の動きがトランプ相場の初期にも見られていたが、もしかするとコミー前FBI長官の議会証言を無難に通過して、トランプ相場の復活を期待した動きかもしれない。来週以降も注目される動きではある。

 さて来週だが、最注目はFOMCであろう。利上げは確実視されており、市場も十分に織り込んでいる。驚きは無いであろう。注目は経済見通しや、FOMCメンバーの金利見通しになるものと思われる。ただ現時点でFRBは、あくまで正常化の過程という認識に立っているものと思われる。失業率は4.3%まで低下するなど完全雇用の中、デフレ懸念でもない限り、一定程度まではシステマティックに利上げを実施したいと考えているものと思われる。上げられるうちに上げて置けば、後々の余力に繋がる。基本的にはこれまでのスタンスに変化はないものと予想している。

 FOMCは最注目のイベントだが、個人的には、FOMCと同日に発表される5月の米消費者物価(CPI)にも注目したい。このところ市場にはインフレ期待を後退させる向きも出始めており、長期ゾーンの米国債利回りの低下に繋がっている。それがドル円を圧迫している要因と言ってもよいであろう。

 CPIは食品・エネルギーを除いたコア指数で、1月は前年比2.3%、2月は2.2%、3月は2.0%、そして前回4月は1.9%と、2%を割り込んでしまった。今回の5月分は1.9%が見込まれている。市場がインフレ期待を後退させても致し方ないところではある。

 あえてドル円のロング勢にとってハッピーシナリオを描くと、ここで2.0%か2.1%を見せてくれれば、かなり“ほっとした感”に繋がる。そして、午後のFOMCでタカ派スタンスに変化がなければ、もしかするとドル円はロフテッド軌道を描いて上に飛んで行くかもしれない。もっとも、落ちるときは音速の10倍らしいが!

 いずれにしろ、来週はどうなるか楽しみな週ではある。

 ドル円の予想レンジだが、109.50~112.50を想定。スタンスはやや強気。

()は前週 
◆ドル円(USD/JPY) 
中期 中立から下へトレンド変化
短期 ↓↓↓(↓↓)

◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 上から中立へトレンド変化
短期 ↓(↑↑)

◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 中立継続
短期 ↓↓↓(↓↓↓)

◆豪ドル円(AUD/JPY) 
中期 中立から下へトレンド変化
短期 ↓↓↓(↓↓↓)

◆ユーロドル(EUR/USD) 
中期 上げトレンド継続
短期 ↑↑↑(↑↑↑)

◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 中立から下へトレンド変化
短期 ↓↓(→)

(みんかぶ「Klug」 野沢卓美)
 

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