【インフレ鈍化と個人消費の後退で強まる金市場のムード】 NY金12月限は11月6日から10日にかけて値を落とし、13日も低迷し、一時 は10月17日以来の低い水準となる1935.6ドルまで値を落としていたが、その 後、14日は大きく反発に転じた。高値を離れながらも終値ベースで1960ドル台を 記録する大幅高となったが、米消費者物価指数(CPI)が大幅高の要因となった。 米労働省は14日に10月のCPIを発表したが、総合CPIの前年同月比の上昇率 は事前予想の3.3%を下回る3.2%となった。また、変動が激しいエネルギーと食 料を除いたコアCPIの前年同月比の伸び率も事前予想の4.1%を下回る4.0%だ った。 特に注目されるのが、7%台で高止まりしていた家賃を示すシェルター部門だ。それ が今回の発表で前年同月比は6.7%に低下していた。シェルター部門は一戸建て住宅 の需給状況に追随して推移するため遅行指標として知られるが、賃金による上昇がこれ まで家賃上昇分を消化していたため、7%台での高止まりが続いていた。しかし一戸建 て需給が緩和に向かっている可能性を示したことから6%台に低下。米国では米連邦準 備理事会(FRB)による追加利上げによって住宅ローン金利が上昇した結果、現在の 持ち家を売って新たな家を購入するという動きが縮小し、これが中古住宅の供給不足を 招いた。 この供給不足と利上げの影響による住宅ローンの上昇にもかかわらず、一戸建販売件 数は堅調を維持していたが、家賃を示すシェルター部門の緩和が見られたことは、一戸 建て需要の後退とこれに伴いシェルター需要がピークアウトした可能性を示している。 シェルター部門の上昇率高止まりはCPIを下支えする要因として懸念されてきただ けに、今回6%台へと低下したことは、CPI全体にも幅広く影響したと見られる。今 後も低下傾向が続くか注視していきたい。 このように予想を下回るCPIが発表されたことで、それまでのパウエル議長による タカ派発言が意識されていたムードから、米利上げ終了を見込むムードに転換。為替市 場におけるドル売りの動きと同じように米債券市場では買い戻されるなかで米10年債 の利回りが4.5%を割り込む動きも見られている。 このCPIに加え、10月米小売売上高が事前予想を上回りながらも7カ月振りの減 少となったことが注目される。今回発表された小売売上高の前月比は事前予想の‐0. 3%を上回る−0.1%となったが、生活必需品ではない家具、雑貨などの項目での減 少が目立ち、不必要な支出が避けられている様子を示唆している。 これまでの発表で極めてタイトな状態にあった米雇用情勢が緩和に向かっており、失 業率が上昇するなど解雇の動きも出てきていることが明らかとなっている。雇用情勢が 緩和に向かうことは賃金の上昇率が低下する可能性があることを示し、インフレ率の上 昇、高金利政策と相まり個人の消費意欲が今後も後退し続けることも予想される。 これらの動きはNY金市場ではインフレ鈍化と同時に、米景気悪化に対する警戒感を 高めるものであり、金市場において強気材料視される可能性が見込まれる。15日の取 引では軟調な足取りとなったNY金だが、金市場を巡る環境は強気が意識されるものと なっているため、調整を入れながら1900ドル台後半を目指す足取りを演じる可能性 が高まっている。 MINKABU PRESS
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