中国AIショックでM7反落もS&P500は最高値更新 (1) 【シルバーブラットの「S&P500」月例レポート】

配信元:株探
著者:Kabutan
S&P500月例レポートでは、S&P500 の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P 500 MARKET:2025年1月
個人的見解:「1月の相場がその年の相場を決める」― 株式市場は史上最高値を更新し、企業収益も過去最高を記録。第2次トランプ政権がスタートし、生成AI(人工知能)分野では警告射撃が発せられる。

 1月の相場は一筋縄ではいかないと考えられていましたが、ふたを開けてみれば株価は上昇して月を終えました(2024年は12ヵ月のうち9ヵ月、また2023年は12ヵ月のうち8ヵ月で月間騰落率がプラスでした)。不透明感の強まりや深刻な状況悪化、また不安定な地合いなども見られましたが、こうした悪材料を織り込みながら相場は上昇し(1月は2.70%上昇)、月間での終値の最高値更新も続きました。S&P500指数は過去13ヵ月のうち11ヵ月で史上最高値を更新しました(2025年1月は最高値を一度更新すると同時に、終値でも史上初めて6100を突破しました。昨年12月は、最高値こそ4回更新したものの、月間騰落率は2.50%のマイナスとなりました)。

 金価格(2025年1月末は1トロイオンス=2834ドルとなり、2024年12月末の同2638ドルから上昇)とビットコイン(同10万1630ドル、同9万3417ドル)も上昇しました。反対に、石油価格(同1バレル=73.58ドル、同74.80ドル)は下落しました。金利も低下したとはいえ(米国10年国債利回りは同4.55%、同4.58%)、引き続き高水準で推移しています(米連邦準備制度理事会・FRBは1月会合で利下げを見送っており、市場関係者は次回利下げを6月と予想しています)。

 米国市場への資金流入も続いており(米国が相対的に良好な投資先と見られているため、海外からの資金流入も継続)、株式市場を支えています。企業業績も予想以上に堅調で、2024年第4四半期(そして2025年も)は過去最高を更新すると見込まれています。また、売上高も四半期ベースで過去最高になる(利益率も高水準)と予想されています。

 1月は値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大きく上回りました(355銘柄が上昇、148銘柄が下落。2024年12月は54銘柄が上昇、449銘柄が下落。2024年通年では332銘柄が上昇、169銘柄が下落)。また、11セクターのうち、10セクターが上昇しました。唯一下落したのは情報技術セクターでした(1月は2.93%下落、2023年末比では31.71%上昇)。12月は11セクターのうち3セクターが上昇しました(11月は全11セクターが上昇)。

 マグニフィセント・セブン銘柄はこれまでのオーバーパフォームから反落に転じました。マグニフィセント・セブンのS&P500指数の2024年のトータルリターンに占める割合は53.1%でしたが(つまり、2024年のS&P500指数のトータルリターンはプラス25.02%でしたが、マグニフィセント・セブン銘柄を除くとプラス11.75%になるということです。2023年も同銘柄を含めたトータルリターンはプラス26.29%でしたが、除いた場合は9.94%でした)。

 1月はマグニフィセント・セブン全体では騰落率がマイナスとなりました。具体的には、S&P500指数の1月の騰落率はプラス2.70%でしたが、マグニフィセント・セブン銘柄を除くとプラス2.90%となります。1月最後の週末(1月26日)に、中国の民間のスタートアップ企業DeepSeek(ディープシーク)による生成AI開発のニュースが報道されました。同社が開発し2024年12月に公開した大規模言語モデル(R1)はオープンソースかつ無料で利用でき、エヌビディアの旧型の廉価版チップ(H800)を使用して、開発コストも600万ドルと言われており、さらにその性能が米国の競合企業(アンソロピック、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、OpenAI)に匹敵、または凌駕しているという内容です。

 この中国企業による生成AIの開発は、現時点、そして将来的にも期待されていた米国のグローバルテクノロジー分野での優位性とその開発コストに疑問を投げかけました。事実、1月に大手AI開発事業者は将来のAI開発プロジェクトに5000億ドルを投資することを明らかにしていました。

 DeepSeekのニュースを受けて、1月27日にS&P500指数は1.48%下落しました(27日時点での月間騰落率はプラス2.20%)。また、S&P500情報技術セクターは同日に5.58%下落し(1月は2.93%下落)、半導体大手エヌビディアの株価は同日に16.97%下落して、1日で時価総額が5940億ドル減少しました(株価は1月に10.59%下落)。「1月の相場がその年の相場を決める」という1月のバロメーターについては、1929年以降70.8%の確率で当てはまります(2024年も1月が1.59%の上昇、年間リターンが23.31%とその通りとなりました)。初日の市場がその年の市場を占うかどうかについては、ほとんどコイントスのようなもので49%の確率になっています。2025年の初日は0.22%下落しました。この指標は2021~2024年は当てはまりませんでした。

 2月の株式市場では、重要イベントが相次ぎ、その度に相場が大きく動くことが予想されます。2月1日にはカナダとメキシコに対して25%の関税、そして中国に対しては10%の追加関税を課す大統領令が発令される見通しです。また、ジョンソン下院議長は財政調整法案を成立させるための予算決議の採択期限を2月27日としています。この間には通常の経済指標の発表もあり、決算発表、消費実態を示す小売動向に関するレポートや企業による業績見通しも続きます。トランプ大統領は就任直後に大統領令の連発というインパクトのある方法で公約実行をスタートさせましたが、議会審議が不可欠な法案に関しては議会に回されるでしょう。いずれも大きな太字フォントで大々的に報道されることになるはずです(スマホでニュースを見ている方には、大型スクリーンのデュアルディスプレイに切り替えることをお勧めします)。覚悟しておいてください。この先は(予想もつかない)デコボコ道が続いていきます。

●インデックスの動き

 ○2025年の米国市場は12月に2.50%下落した流れを受けて下値を試す展開となり、初日は小幅に値を下げて(0.22%下落)幕を開けましたが、1月20日のトランプ大統領の就任式を控えた中旬の1月15日時点では前月末から0.95%の上昇となっていました。その後、就任式が終わると(就任式当日、銀行は休業日で、株式市場も休場)、相場は全面高の動きとなり、S&P500指数は史上初めて6100を突破して、終値での最高値を更新しました(6118.71)。1月の月間騰落率はプラス2.70%と大幅な上昇となりました。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)も全面高となり、4.70%上昇しました。しかしながら、最高値を更新することはなく、また2024年12月4日に付けた過去最高値(4万5014.04ドル)からは1.04%下落した水準で月を終えました。

  ⇒1月のS&P500指数は2.70%と大きく上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス2.78%)。2024年12月は2.50%と大幅に下落しました(同マイナス2.38%)。また、11月は5.73%の大幅上昇でした(同プラス5.87%)。

  ⇒過去3ヵ月のS&P500指数の騰落率は5.87%の上昇となりました(同プラス6.22%)。

  ⇒2025年1月末までの12ヵ月間の騰落率は24.66%の上昇でした(同プラス26.38%)。

  ⇒2024年通年では、S&P500指数は23.31%上昇しました(同25.02%)。2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)でした。

  ⇒1月は値上がり銘柄数が増加し、値下がり銘柄数を大きく上回りました。355銘柄が値上がりしたのに対し、値下がりは148銘柄でした(12月は値上がりが54銘柄にとどまったのに対し、449銘柄が値下がりしました。また、2024年通年では332銘柄が値上がりし、169銘柄が値下がりしました)。

  ⇒1月は20営業日のうち12営業日で上昇しました(12月は21営業日のうち9営業日で上昇)。また、5営業日で1%以上変動し、そのうち2営業日が上昇、3営業日が下落でした。12月も同様に、5営業日で1%以上変動しました(2営業日が上昇、3営業日が下落)。2024年通年では50営業日で1%以上変動しました(31営業日で上昇し、このうち3営業日で2%以上上昇。また19営業日で下落し、このうち4営業日で2%以上下落)。

  ⇒1月は11セクターのうち、10セクターが上昇しました(12月は11セクターのうち、3セクターが上昇)。

 ○S&P500指数の時価総額は1月に1兆3490億ドル増加して、51兆1540億ドルとなりました(12月は1兆2240億ドル減少)。2024年通年で時価総額は9兆7660億ドル増加しました。また、2023年は7兆9060億ドルの増加、2022年は8兆2240億ドルの減少でした。

 ○ダウ平均は、1月中に終値での最高値を更新することはありませんでした(2024年通年では48回更新)。2024年12月は1回だけ終値での最高値を更新しました(終値の最高値は4万5014.04ドル、取引時間中の最高値は4万5074.63ドル)。11月は4回、10月と9月は7回、最高値を更新しています。ダウ平均は1月に4.70%上昇して(配当込みのトータルリターンは4.78%)、4万4544.66ドルで月を終えました。12月は5.27%下落して(同マイナス5.13%)4万2544.22ドル、11月は7.54%上昇して(同プラス7.74%)4万4910.65ドルでした。過去3ヵ月では、6.66%上昇(同プラス7.10%)、過去1年間では16.76%上昇(同プラス18.93%)しました。2024年通年では12.88%上昇(同プラス14.99%)、2023年は13.70%の上昇(同プラス16.18%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。

 ○1月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は1.03%と、12月の0.91%から上昇しました(11月は0.83%)。2024年通年は0.91%、2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.41%)

 ○1月の出来高は、12月に前月比2%減少した後に、同8%増加し(営業日数調整後)、前年同月比では14%増加となりました。2025年1月までの12ヵ月間では前年比1%減少しました。2024年通年では前年比2%減少しています。2023年は同1%減で、2022年は同6%増でした。

 ○1月は1%以上変動した日数は20営業日中5日(上昇が2日、下落が3日)、2%以上変動した日はありませんでした。12月は1%以上変動した日数は21営業日中5日(上昇が2日、下落が3日)、2%以上変動した日が1日(下落)ありました。2024年通年では、1%以上変動した日数は50日(上昇が31日、下落が19日)で、2%以上変動した日数は7日(上昇が3日、下落が4日)でした。2023年は、1%以上変動した日数が250営業日中63日(上昇が37日、下落が26日)、2%以上変動した日数が2日(上昇が1日、下落が1日)でした。

 1月は20営業日中9日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上となった日はありませんでした。対して12月は1%以上の変動が21営業日中7日で、2%以上となった日が2日ありました。2024年通年では1%以上の変動が83日、2%以上の変動が11日でした。2023年は1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が219日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日でした(4%以上の変動が4日、5%以上の変動が1日)。

 過去の実績を見ると、1月は61.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.19%、下落した月の平均下落率は3.81%、全体の平均騰落率は1.19%の上昇となっています。2024年1月のS&P500指数は2.70%の上昇でした。

 「1月の相場がその年の相場を決める」という1月のバロメーターについては、1929年以降70.8%の確率で当てはまります(2024年も1月が1.59%の上昇、年間リターンが23.31%とその通りとなりました)。初日の市場がその年の市場を占うかどうかについては、ほとんどコイントスのようなもので49%の確率になっています(2021~2024年は当てはまりませんでした)

 2月は52.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.92%、下落した月の平均下落率は3.44%、全体の平均騰落率は0.06%の下落となっています(平均がマイナスとなる3ヵ月のうちの1つ:2月が-0.056%、5月が-0.059%、9月が-1.13%)。

 今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2025年は3月18日-19日、5月6日-7日、6月17日-18日、7月29日-30日、9月16日-17日、10月28日-29日、12月9日-10日となっています。

※「中国AIショックでM7反落もS&P500は最高値更新 (2)」へ続く

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Kabutan

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