今週も市場はトルコリラの動向に焦点が集まっていたが、リラが買い戻されたことで、いまのところは波乱な相場展開にはなっていない。ドル円も上値は重かったが110円台を何とか維持した。トルコ当局によるリラ建ての預金準備率の引き下げなどの金融安定化策や、カタールによる150億ドルの出資確約などが安心感を誘っていたようだ。 IMFデータによると昨年末時点でトルコの対外債務はGDPの53%となっている。かつてのギリシャほどではないが、南アフリカやロシアと並んで世界の高債務国の一つだ。ちなみに、南ア・ランドやロシア・ルーブルもトルコ・リラに連れ安していた。FRBの利上げによって世界の資金がドルに流れ込む中、市場は新興国の対外債務に再び着目し始めているのかもしれない。トルコの場合、対外債務の3分の1超が1年以内に満期を迎える。その4割は変動金利型で金利が上昇すれば償還コストも膨らむことから非常に厄介だ。 トルコの直近の消費者物価指数(CPI)は前年比で15.85%と非常に高インフレになっている。リラ安がその要因だが、利上げが大きな解決策で市場もそれを求めている。しかし、景気刺激策を打ち出していることや、上記のように債務が変動金利になっていることもあり、エルドアン政権は利上げには消極的だ。今週はリラ安がひとまず落ち着いてはいたが、エルドアン政権が利上げや緊縮財政に舵を切らない限り火種は残るのであろう。 市場ではさほど反応がなかったが、少し気になる動きがあった。トランプ大統領がツイッターで「資金がこれまでにないほど我々の大切なドルに集まってきている」とツイートしていた。現在のドル高を賞賛している印象も想像される。また、クドロー米国家経済会議(NEC)委員長が米CNBCのインタビューで、「ドルはここしばらく、レンジ内で推移しており、ドルのパフォーマンスは米国に対する信頼感が世界的にポジティブなことを物語っている」と述べていた。強いドルに具体的な適切水準があるのかとの問いには、「ただ安定を望む」と述べていたものの、「強いドルは商品価格を抑制し、ガソリン価格を低下させ、原油も値下がりしている。ドルを操作するつもりはない」とも語っていた。一部からは、トランプ政権はドル高に警戒感を示し始めているといった観測も出ていたが、この発言を聞いた限りにおいてはそうでもないようだ。 ドルが基軸通貨のため、昔から為替市場は金融政策を含め、時の米政権のスタンスにどうしても左右される。これまでの政権はクリントン政権は別にして、貿易赤字の観点からドル安を誘導することが多かった。特に対円では対日政策の面からも重要な手段であっただろう。今回の4-6月期の米企業決算は絶好調で、ドル高の影響はさほど出なかったようだ。 もし、トランプ政権がある程度ドル高を容認する姿勢であれば、これは追い風だ。日本の投資家にとってはドル高が最も心地よい追い風となる。先週も述べたが、金利もそこそこあり、カントリーリスクの観点からも、いまはドル建て投資が一番無難であろう。ただ、新興国や米中問題などによるリスク回避の雰囲気が強まるような展開なら円高がセットにはなる。ただし、ユーロやポンドといった他の通貨よりはドルに対する円高は進まない。FXならいまは、ドル円のロングが無難なのだろう。もっともいまは、下がったところを少しづつ拾って行く戦略にはなるのかもしれないが。 さて来週だが、重要な経済指標はさほどないが、米中通商協議やジャクソンホールでのFRBの年次シンポジウム、FOMC議事録などイベントはそこそこある。注目は米中通商協議であろう。中国商務省の王次官率いる中国代表団が米国の招請に応じ、マルパス米財務次官らと会談する予定。次官級協議でどこまで進展があるかは未知数だが、6月から交渉が途絶えていたこもあり、再開されることは重要な一歩ではある。週末には米中の通商問題担当者が、11月末にブエノスアイレスで開催されるG20サミットの際の米中首脳会談に向けて、こう着状態を終わらせるためのロードマップを描いていると伝わっていたが、何らかの進展に期待したいところではある。 FRBのシンポジウムではパウエル議長が講演を行う。ただ、FOMCを踏襲する内容に留まるものと想定される。年内あと2回の利上げ期待を追認するのではとも思われる。もちろん、トルコ情勢は引き続き注視されるが、トルコは来週1週間に渡って連休となる。 ドルは少し伸び悩んで来てはいるが、底堅さは堅持されるものと見ている。米中問題やトルコなどリスク要因から円高の動きも想定されるが、ドル円は崩れることはないと想定する。110円を割り込むようなら拾って行きたいところではる。「押し目待ちに押し目なし」という相場の格言があるが、来週は「押し目待ちに押し目アリ」で望みたい。レンジとしては109.50~111.50円を想定。「やや強気」のスタンスは継続。 ()は前週 ◆ドル円(USD/JPY) 中期 中立から下へトレンド変化 短期 ↓↓(→) ◆ユーロ円(EUR/JPY) 中期 下げトレンド継続 短期 ↓↓↓(↓↓) ◆ポンド円(GBP/JPY) 中期 下げトレンド継続 短期 ↓↓↓(↓↓) ◆豪ドル円(AUD/JPY) 中期 中立から下へトレンド変化 短期 ↓↓(↓) ◆ユーロドル(EUR/USD) 中期 下げトレンド継続 短期 ↓↓↓(↓↓) ◆ポンドドル(GBP/USD) 中期 下げトレンド継続 短期 ↓↓↓(↓↓↓) minkabu PRESS編集部 野沢卓美
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