[Vol.1985] 金(ゴールド)は長期視点の材料で高値維持

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。63.05ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。3,393.95ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年09月限は13,580元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年07月限は463.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2299.75ドル(前日比13.15ドル縮小)、円建てで10,827円(前日比53円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月5日 大引け時点 6番限)
15,603円/g
白金 4,776円/g
ゴム 292.4円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY金先物 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「金(ゴールド)は長期視点の材料で高値維持」
前回は、「株価とコモディティ価格の相違点」として、SNSが及ぼした情報の受け手と発信者の関係への影響を確認しました。

今回は、「金(ゴールド)は長期視点の材料で高値維持」として、金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年6月時点)を確認します。

国内外の金(ゴールド)相場の推移を確認すると、過去およそ半世紀において、足元が最も高い水準であることが分かります。トランプ米大統領がもたらす不安が金(ゴールド)相場を押し上げている、という話を耳にします。

確かに、「短期的」にはその通りだと思います。トランプ氏が導入した「相互関税」によって、米国債さえも売られる不安が生じたり、株価が乱高下したり、ドルが下落したりしました。一時、債券、株式、通貨の三つが同時に売られる「トリプル安」が発生し、金(ゴールド)相場に、短期的な強い上昇圧力がかかりました。

とはいえ、2010年ごろから始まった突出した上昇には、トランプ氏がもたらす不安よりも長期視点で続いている「中央銀行」の買いや「世界分断」深化による影響が大きいといえます。トランプ氏が市場に強い影響を与え始めたタイミングは、2016年の1回目の米大統領選挙だったためです。

中央銀行は、その国の物価と雇用の最適化を実現すべく、通貨の流通量や金利水準を調節する公的な機関です。同時に、対外的に何かあった時の備えとして保有する外貨準備高の積み上げ・取り崩しも行っています。多くの中央銀行は、金(ゴールド)を外貨準備高の一部に組み込んでいます。

中央銀行全体の金(ゴールド)の買い越し量(購入-売却)を確認すると、2010年に買い越しに転じ、その後も買い越しが続いています。近年はその規模が大きく、金(ゴールド)の全需要のおよそ二割を占めています。

買い越しに転じたタイミングは、リーマンショック直後にはじまった主要国の中央銀行による大規模な金融緩和が本格化したタイミングです。中央銀行が金(ゴールド)をどのような意図で保有しているかについて、世界的な金(ゴールド)の調査機関である、ワールド・ゴールド・カウンシルが実施している中央銀行向けのアンケート結果からヒントを得ることができます。

「中央銀行が金(ゴールド)を保有する際の意思決定に関連するトピックとは?」という質問では、「長期的な価値保全/インフレヘッジ」「危機時のパフォーマンス」「効果的なポートフォリオの分散化」「デフォルトリスクなし」「歴史的地位」「流動性の高い資産」などが多く選択されました。

2010年ごろ以降、主要国の中央銀行は、世界経済の不安定化に対応すべく、断続的に通貨の流通量を増加させ、金融緩和を進めました。これにより、世界全体の通貨の流通量は膨大に膨れ上がり、法定通貨の価値が薄まる懸念が生じました。

先進国、新興国を問わず、中央銀行はこうした世界規模の法定通貨の価値希薄化懸念を感じ取り、金(ゴールド)をその処方箋の一つとしたと考えられています。現在も、主要国(特に米国)の通貨の流通量は、記録的な水準で高止まりしたままです。膨張した通貨の流通量がもとの水準に戻るまでに、相当の時間を要します。

この事は、中央銀行の金(ゴールド)を保有する動機が長期視点で継続すること、「第二の矢」がもたらす金(ゴールド)相場への上昇圧力が継続することを示唆しています。

図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年6月時点)
図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年6月時点)
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。