AIが貪り食う「赤いゴールド」の衝撃 ―― 銅1.4万ドルの熱狂と、100万トンの需給深淵

著者:村石 充
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■ 驚異の1.4万ドル突破、その先にある「真のステージ」
ロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月物は、去る1月29日、ついに1トン=14,527.50ドルという歴史的・驚異的な最高値を叩き出した。足元の2月19日時点では12,000ドル台後半まで押し戻されているが、これは記録的な急騰に対する「健全な調整」に過ぎない。

市場の視線はすでに、一過性の高値を越えた「次なる強気相場」を見据えている。強気派の背中を押すのは、生成AIの爆発的普及がもたらすデータセンター(DC)需要と、構造的な供給不足が引き起こす「100万トンの壁」だ。

■ データセンター:AI社会の「血管」として
かつて銅は、世界経済の体温計「ドクター・カッパー」と呼ばれ、景気先行指標の代表格だった。しかし、今の銅はもはや単なる景気敏感銘柄ではない。

数万台規模のAIサーバーがうねりを上げる次世代データセンターにおいて、銅は電力を供給し熱を逃がす、文字通りの「血管」へと進化したのだ。最新の試算によれば、AI向けDCの建設ラッシュにより、2030年までに追加で最大100万トンもの需要が積み上がるとの予測が現実味を帯びている。

・高密度配線・バスバー(導電棒)
・液冷を含む高度な冷却システム
・DC専用の超高圧送電網の増強

これら「AIインフラ」のすべてにおいて、代替不能な導電性を誇る銅が不可欠となっている。

■ 「100万トン不足」という構造的な罠
需要が爆発する一方で、供給側は悲鳴を上げている。チリやインドネシアといった主要産地での鉱石品位の低下に加え、新規鉱山開発のリードタイムは今や15年を超える。さらに、厳しいESG規制が開発コストを押し上げ、増産のハードルはかつてないほど高い。

トラフィグラやJPモルガンなどの予測を統合すると、2026年は「構造的赤字」の元年となる可能性が濃厚だ。需給ギャップが100万トン規模に拡大すれば、在庫水準は歴史的低水準を更新し続けるだろう。実際、一部の製錬所では精鉱確保のために処理手数料(TC/RC)が実質ゼロやマイナスに沈むという「原料争奪戦の極限状態」も報告されている。

■ 投資戦略:1.3万ドルの銅は「高い」のか?
「1万3000ドル台の銅は高すぎる」という声に対し、市場のプロたちの答えはノーだ。脱炭素とAI化という二大潮流において、銅はもはや「産業のコメ」である半導体を動かすための「血肉」そのものだからだ。

今後、米国の中間選挙に向けた利下げ観測や、中国の追加景気刺激策が重なれば、再び1万5000ドルの大台を試す展開も十分に想定される。投資家は目先のボラティリティに惑わされることなく、この巨大な構造変化の本質――「赤いゴールド」へのパラダイムシフトを注視すべきだろう。

LME銅3カ月物(日足)
出所:Win Stationをもとに筆者作成

 

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このコラムの著者

村石 充(ムライシ ミツル)
フジトミ証券(株) 投資助言事業部チーフアナリスト / 認定テクニカルアナリスト(CMTA®)
1996年より金融業界に身を置き、商品先物オプションやFXの自己ディーリングを通じて多様なトレード手法を習得。2007年に日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)を取得。現在はYouTube「フジトミチャンネル」にて、独自のサイクル理論と金融占星術を軸に、プライスアクションや移動平均線を組み合わせた実戦的な相場戦略を配信。投資助言サービスでは、金・白金・原油などの商品先物から、日経225・NASDAQ100といった株価指数まで、エビデンスに基づいた売買タイミングを提供している。