REIT指数(前編)―投資対象として株価指数を考える【5】―

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◆REIT指数とは


 第5回目ではREIT指数について取り上げます。この指数は正式名称を「東証REIT指数」と言い、東京証券取引所(東証)に上場している全てのJ-REIT(Japan-Real Estate Investment Trust、不動産投資信託)を対象とする浮動投資口ベースの時価総額加重平均型の指数です。第1回目で取り上げた東証株価指数(TOPIX)も浮動株ベースの時価総額加重型の指数ですので、基本的には同じ算出方法となります。

 ただし、浮動投資口の定期見直しは、TOPIXのように個別銘柄の決算期に応じて四半期ごとに行われるのではなく、前年の12月期までの有価証券報告書などのデータに基づき、年1回 7月の最終営業日に実施されます。

 東証REIT指数=(当日の指数用時価総額÷基準日の時価総額)×1000
 ※基準日は2003年3月31日


出所:refinitiv

 また、「浮動株」ではなく「浮動投資口」といった表現を用いるのはJ-REITが株式ではなく、投資信託だからです。このようにJ-REITに関しては株式とは異なる言い回しが散見されますので、株式のみを投資対象としている投資家には分かりにくい部分があるかもしれません。そこで、まずはJ-REITについてみていきます。

 

◆J-REITとは


 J-REITは投資信託でも通常の契約型投資信託ではなく、会社型投資信託(投資法人型)に分類されます。不動産を保有・運用するための「器」である投資法人が株式や債券の発行、あるいは借り入れによって調達した資金で不動産を取得し、その賃貸や売却によって得られた収益を投資家に分配する仕組みです。

 これにより従来の不動産投資では考えられない小口資金での投資や分散投資までもが可能となったほか、不動産売買特有の契約条件交渉や売買に時間を要する煩わしさがなく、いつでも市場で売買することが可能になりました。

 また、配当可能利益の90%以上を投資主(株式会社で言えば株主)に分配することや、筆頭投資主の投資口(株式会社で言えば株式)保有比率が50%以下であることなどの要件を満たせば、J-REITは不動産投資から得られる収益の法人税が実質的に非課税というメリットもあります。この点は株式会社と大きく異なります。

 REITは元々、1960年に米国で誕生した金融商品で、制度改正を経て1990年代に人気を集め市場が急成長しました。日本では2000年11月に「投資信託及び投資法人に関する法律」が改正され、投資信託の運用対象に不動産なども加えることが可能になりました。そして、2001年3月に東証でJ-REITの上場市場が創設され、同年9月に最初の2銘柄が上場、2003年4月からはREIT指数の算出が始まりました。

 

◆海外REITとは異なるJ-REIT


 ここで気になるのは米国の金融商品を日本に取り入れる際に、なぜ「REIT」ではなく「J-REIT」という呼称にしたのか、という点です。それは、米国に限らず海外のREITがJ-REITと似て非なる金融商品だからです。

 特に大きく異なる点は、海外のREITが不動産の開発事業を行うことができるのに対し、J-REITは不動産の賃貸活動による収益がほとんどであり、開発事業は認められていません。そのため、海外REITは不動産株の色合いが強く、J-REITに比べて収益変動リスクが大きい金融商品と言えるでしょう。

 とはいえ、J-REITにも様々なリスクがあります。市場で取引されている以上、価格変動リスクは存在します。また、海外REITほどではありませんが、収益変動リスクや分配金(株式会社で言えば配当金)の変動リスクもあります。

 もちろん、上場基準を満たせなければ上場廃止になりますし、経営破綻も起きます。実際に2008年にはニューシティ・レジデンス投資法人が、不動産の購入資金を調達できずに多額の違約金が発生したことなどで破綻。民事再生法の適用を申請し、上場廃止となりました。

 加えて、J-REITは不動産の賃貸活動による収益がほとんどであるため、地震や台風などによる倒壊や損壊といった災害リスクのほか、建築規制や土地利用などの不動産に係る法制度の変更リスクなども投資リスクとして考えられます。

 このようなJ-REITが投資する対象は当初、住宅、オフィスや商業施設など、あるいはこれらを組み合わせた総合型が中心でしたが、その後に物流施設、ホテルや産業用不動産など投資対象が多様化します。さらに、2014年にはヘルスケア施設を、2016年には温泉・温浴関連施設をポートフォリオに組み込むJ-REITが登場するなど、投資対象の多様化が一段と進展しています。なお、個別のJ-REITに関する情報はJAPAN-REIT.COMのサイトをご参照ください。

▼JAPAN-REIT.COM
 http://www.japan-reit.com/

 

◆REIT指数の構成銘柄ウェート


 東証に上場している全てのJ-REITを対象とするREIT指数は、冒頭で触れた通り浮動投資口ベースの時価総額加重平均型の指数ですから、浮動投資口ベースの時価総額が大きい構成銘柄のウェートが高くなります。

 東証は各J-REITの浮動投資口ベース時価総額を有償にて提供していますが、ここでは東証REIT指数ファクトシートに記載されている2020年3月末時点の浮動投資口ベース時価総額上位10投信を示しました。このランキングに名を連ねる各J-REITの特徴を表す運用資産をみると、事業所主体型と総合型がいずれも16%超と高いウェートを示しています。

 ちなみに、ランキング10位の日本リテールファンド投資法人は、2021年3月1日付でMCUBS MidCity投資法人と合併し、現在は日本都市ファンド投資法人<8953> [東証R]という名称になっています。合併により同投資法人の資産規模は国内最大となり、浮動投資口ベース時価総額においてもトップの日本ビルファンド投資法人 <8951> [東証R]と肩を並べる規模になることでしょう。


出所:東証REIT指数ファクトシート、2020年3月末現在。
※1日本リテールファンド投資法人は合併を経て日本都市ファンド投資法人に商号変更。
※2運用資産はJAPAN-REIT.COMの分類に基づく。

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。