コモディティレポート(金)

配信元:MINKABU PRESS
著者:MINKABU PRESS
【12月の米追加利下げ期待高まるも金市場は不透明感が強い
 NY金2月限は今月18日から上伸し22日に2743.9ドルの高値に達し、この
間、159.6ドルの上げ幅を記録した。しかし25日に2748ドルまで値を伸ばし
た後、急落に転じ2640ドル台まで値を崩した。翌26日は反発、27日は続伸とな
り、2680ドル台まで値を戻したものの、5日移動平均を抵抗線とするなどチャート
面では上昇に抵抗を窺わせる足取りとなっている。
 18日から22日にかけての急伸は、トランプ氏が大統領選に勝利したことでドル買
いの動きが活発するなかで急落しながらも、米中関係の悪化懸念の高まりを受けて安全
資産としての需要が膨らんだことが背景となった。
 また、中国からの輸入品に対し60%もの輸入関税を課するとの公約は、中国からの
輸入額の大幅な減少を予想させると同時に、今年第2四半期、第3四半期と国内総生産
(GDP)前年比が4%台に落ち込んでいる中国経済に大きな打撃を与える可能性があ
り、これが中国経済に対する不安感を高めた。
 米中関係の悪化に加え、黒海地域においてウクライナが英米産のミサイルを発射、ロ
シアでは各指針が改定されたうえ、ロシアがICBMを発射したと伝えられるなどウク
ライナ情勢の緊迫化が警戒されたことも金への逃避買いを刺激する要因となった。
 実際、SPDRの金ETF残高は10月30日に892.65トンを記録した後は縮
小に転じ、トランプトレードによる急落終盤の11月14日には867.37トンまで
縮小していたが、その後は増加傾向を維持し26日時点で879.41トンに達してい
る。
 それにもかかわらず急落に転じたのは黒海情勢に大きな動きが見られないうえ、イス
ラエルとレバノンが停戦合意に達するなど、中東不安が後退したことが一因となった。
安全資産を求める動きが後退すると同時に、くすぶる米国のインフレ懸念も引き続き金
市場の上値抑制要因になっていると見られる。
 米国では10月の雇用統計では非農業部門雇用者数はハリケーンや大規模なストの影
響で1.2万人の増加にとどまったことが明らかとされたが、平均賃金は前月比で+
0.4%と9月に記録した伸び率を上回ったうえ、前年比も+4.0%を記録するな
ど、賃金の上昇傾向が示されている。
 この賃金の上昇傾向は個人の消費意欲を高める一因となるが、米商務省発表の10月
の個人消費支出物価指数(PCE)は前年同月比で+2.3%と前月の+2.1%を上
回り消費の旺盛さを示唆する内容となっている。
 また、米国の10月消費者物価指数(CPI)の前年比は+2.6%で前月から伸び
が加速化しているにもかかわらず旺盛な消費が見られていることは、CPIは長期的に
見れば鈍化傾向を維持しているとはいえ賃金の上昇がインフレ率の上昇を下支えするサ
イクルが依然として機能していることを意味する。
 27日には米追加利上げ期待が高まるなかドル売りの動きが進みNY金市場も堅調と
なった。ただ、米経済指標が示すインフレ加速化の動きやインフレ率の上昇を促す根本
的な原因となる賃金の上昇傾向は依然として維持されているだけに、米連邦準備理事会
(FRB)の金融政策の見通しには不透明感が強く、NY金市場の今後の上値は限られ
ることになりそうだ。
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