[Vol.1164] 物価高は「2段構造」で起きている

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。85.70ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,845.15ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年05月限は14,360元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年03月限は539.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで816.7ドル(前日比10.3ドル縮小)、円建てで3,020円(前日比4円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(1月26日 16時55分頃 6番限)
6,756円/g 白金 3,736円/g
ゴム 239.0円/kg とうもろこし 40,250円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「物価高は「2段構造」で起きている」

前回は、「金融引き締め開始は「物価高加速」がきっかけ」として、FRBが金融政策の引き締め傾向を維持・推進している理由の一つに挙げられる「物価高」について、書きます。

今回は、「物価高は「2段構造」で起きている」として、「物価高」の背景について、筆者の考えを書きます。

足元で発生している「物価高」の根本原因は、「【黎明期】の脱炭素」だと筆者は考えています。温室効果ガス排出量の大幅削減に成功した上で、経済成長の恩恵を享受する「【成熟期】の脱炭素」ではありません。

筆者は2030年から2050年ごろ(SDGsやパリ協定の期限)に、脱炭素が【成熟期】に達していると信じています。しかし今は、まだその時期ではなく、【黎明期】ゆえ、以下の文脈で、「脱炭素」が物価高の要因になっていると考えています。

1.産油国・産ガス国が態度を硬化させる動機(OPECプラス、GECFなど)
2.産油国における石油開発投資鈍化要因(米国など)
3.石炭消費国における石油・天然ガスの需要増加要因
4.ガソリン・軽油消費の温存(バイオ燃料・合成液体燃料開発=化石燃料消費の温存)
5.農産物の新需要増加・供給減少 要因(バイオ燃料需要増、メタン(牛のげっぷ)削減→牛の頭数減少観測)
6.「電化」による世界的な金属需要増加 要因(銅・ニッケルなど)

1.から4.は、エネルギー価格・電力価格の上昇要因、5.は、農産物価格の上昇要因、6.金属価格の上昇要因です。

また、以下は、「【黎明期】の脱炭素」を含んだ、足元の物価高、金融引き締め、暗号資産と主要株価指数の動きの関係です。「最上流」に「【黎明期】の脱炭素」と商品個別の上昇要因が位置します。

足元の「物価高」は、「【黎明期】の脱炭素」と商品固有の上昇要因の2段構造で発生していると考えられます。目に留まりやすい、OPECプラスの産油量や産油国の地政学的リスクなどの状況だけで、足元の物価高を説明することはできません。

今後、「脱炭素」がどういったタイミングで【黎明期】から【成長期】そして【成熟期】に移行するのか、長期的視点で見守っていく必要があります。【黎明期】のままの場合、今と同様、「脱炭素」は「物価高」の一因であり続ける可能性があります。

図:足元の物価高、金融引き締め、暗号資産と主要株価指数の動きの関係


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。