[Vol.1199] OPECプラスに増産は期待できない

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。104.67ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,935.35ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年05月限は13,450元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年05月限は674.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで904.35ドル(前日比7.55ドル縮小)、円建てで3,523円(前日比10円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月18日 16時37分頃 6番限)
7,367円/g 白金 3,844円/g
ゴム 247.7円/kg とうもろこし 48,480円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「OPECプラスに増産は期待できない」

前回は、「「総悲観」から「現実的悲観」に移行」として、3月2週目に市場全体のムードが変化したことについて書きました。

今回は、「OPECプラスに増産は期待できない」として、一部の市場関係者が期待するOPECプラスの増産が困難であることについて、筆者の考えを述べます。

足元、ロシア産原油の供給減少分を、サウジアラビア(米国、ロシアに次ぐ世界第3位の原油生産国)が、補ってくれるのではないか?という話(期待)が持ち上がっているのを目にします。筆者はこの点について、今のところ懐疑的です。

以下はOPECプラスのうち、現在実施している生産調整(原油の減産)に参加している20カ国の原油生産量と、生産量の上限の推移です。

※OPECプラス…OPEC(石油輸出国機構)に加盟する13カ国と非加盟国10カ国で構成する主要産油国のグループ。サウジアラビア、イラク、ナイジェリアなど(OPEC)、ロシア、カザフスタン、マレーシアなど(非OPEC)。世界の原油生産量の60%弱を占める。米国は含まれない。(2021年1月時点)

生産量の上限とは、減産実施にあたり、この量を超えて生産をしてはならないと、OPECプラス自らが決めたその月の最大生産量のことです。上限を下回って生産をすれば「減産順守」、それを上回って生産をすれば「減産非順守」です。

特に昨年8月以降、OPECプラス20カ国の原油生産量は増加しています。OPECプラスが毎月一定量(日量40万バレル)ずつ、生産量の上限を引き上げているためです。生産量は増加していますが、OPECプラスは減産を守っています。減産順守は彼らにとって最優先事項だからです。(自ら決めた約束を自ら破った場合、組織の崩壊に至りかねない。外部からの評価も低下する)

OPECプラスが過剰な増産(追加の増産)をしないのは、原油価格をつり上げたい意図がある可能性はあるものの、そもそも減産期間中にあるためです。限定的であるにせよ日量40万バレルずつは、毎月生産量を増やしています。

サウジは、OPECプラスのOPEC側のリーダー的存在です。このため、積極的に増産をする(積極的に約束を破る)ことは行わないとみるべきだと考えます。サウジ、そして非OPEC側のリーダー的存在であるロシアは、生産量の上限を下回る、減産を順守した生産を行っています。(原油生産量と生産量上限の関係は、原油生産量の方が少ない(2022年1月))

また、報じられているとおり、ロシア産原油の禁輸が加速した場合、その減少分をどの国が補うのかという問いへの答えとして、イラクとUAEの名前が挙がっています。そのイラクとUAEは上図のとおり、減産を守っていない「減産非順守」国です。いわゆる「ヤミ増産」「抜け駆け増産」を行っています。

こうした国はもともと、サウジやロシアよりも減産を順守する意欲が低い可能性があり、むしろ原油価格が高騰している今、増産意欲が高まっている可能性すらあります。ロシア産原油の供給減少分を補ってくれる、というよりは、もともと増産をしたがっていた、と考えるのが自然であると、考えます。

制裁によってロシアの原油生産量が減少し、それによってOPECプラス全体の原油生産量が減少する可能性がありますが、その時は、イラクやUAEが「サウジに代わって」増産をし、OPECプラス全体の計画的な増産の流れは維持されると、考えられます。

イラクとUAEの増産報道は、ロシアの原油生産量が減少することを織り込んでおり、彼らが増産をしたとしても、OPECプラス全体の大幅な供給増加(計画増産を超えた過剰な増産)は起きず、それによって原油価格は下落することはないと、今のところ筆者は考えています。(別の材料で下落することはあり得る)

サウジが増産をしない可能性があるのは、OPECプラスが今、減産期間中にあり、リーダー格自らが増産をしにくいため、イラクとUAEが増産をしても全体的な大幅な供給増加にならない可能性があるのは、増加分をロシアの減少分が相殺する可能性があるため、です。

図:OPECプラス(減産実施20カ国)の原油生産量と生産量上限の目安


出所:ブルームバーグのデータおよびOPECの資料をもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。