[Vol.1847] 民主的=豊か、権威的=貧困とは限らない

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。71.31ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,696.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年01月限は18,355元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年12月限は538.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1702.35ドル(前日比4.35ドル縮小)、円建てで8,393円(前日比10円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月8日 18時25分時点 6番限)
13,234円/g
白金 4,841円/g
ゴム 365.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,933円/mmBtu(25年2月限 11月06日18時16分時点)

●NY原油先物(期近) 月足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 月足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「民主的=豊か、権威的=貧困とは限らない」
前回は、「2050年に最も多い年齢層、国家間の格差大」として、主要国の2050年の人口動態(国連予想)を確認しました。

今回は、「民主的=豊か、権威的=貧困とは限らない」として、一人当たり名目GDPを確認します。

国民の豊かさと思想・考え方の関係について確認します。以下は、一人当たりのGDPです。同指標は、国の平均的な豊かさを示すとされています。米国ではリーマン・ショック発生の翌年である2009年と新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年を除けば、1990年以降、上昇し続けています。

米国は富の配分が偏っていることやそれによる格差拡大など、たくさんの問題を抱えているものの、国全体としては豊かになる傾向が続いているといえます。ドイツも同じような傾向にあります。

一方、日本は2012年をピークに低下傾向にあります。甚大な災害がいくつも発生したり、デフレ体質が顕在化したり、各種政策が後手に回ったりするなど、失われた数十年を過ごしています。

新興国の大国と位置付けられ、人口の多さが経済発展に寄与すると期待されてきたインドは、大変に低い水準を推移しています。人口の多さやそこに向けられる期待が、必ずしも国を(平均的に)豊かにするわけではないことが、うかがえます。

権威的な国と言われることがある中国は、大規模ではないものの、少しずつ上昇してきています。王制を敷くサウジアラビアは2000年代に入り上昇が目立ち始め、2022年に日本と同水準になりました。権威的な国は豊かにならない(なれない)、というイメージは実態に即していないことがうかがえます。

その中国とサウジアラビアがどの程度、権威的かを示す資料があります。V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる複数の情報を数値化した自由民主主義指数を参照します。

この指数は0と1の間で決定し、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いこと(権威的な度合いが高いこと)を意味します。

行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義をはかる複数の側面から計算されています。

先進国である米国、ドイツ、日本は高い水準にあります。米国は2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利したことを受けて、最高水準からやや低下しています。ドイツ、日本は、2010年ごろから続く世界分裂・民主主義の後退の流れに身を任せるように、緩やかに低下しています。

新興国のインドも2010年ごろから世界全体の流れに倣って低下が始まり、汚職などの固有の社会不安がまん延しはじめたことがきっかけで、低下に拍車がかかっています。

こうした先進国や一部の新興国で変化が生じているさなか、権威的と言われることがある中国とサウジアラビアは、ほぼ一貫して、低水準にあります。言い換えれば、両国は先進国のような民主的な状況になったことがないのです。ですが、豊かさを獲得しているのです。

投資の分散先を選択する際に必要なことは「メインと異なる」ことです。値動きについては、しばしば「逆相関が良い」と耳にしますが、逆相関の場合、メインの価格推移が好転した場合に、良かれと思って保有した分散先の商品が足かせになってしまうため、必ずしも逆相関が良いとは言えません。ここで言う「異なる」とは「無相関」のイメージです。相関係数でいえばゼロ近辺です。

メインの投資先が米国であるとすると、できるだけ異なる性質を目指す分散先として、「労働人口維持」と「人口増加維持」が実現し得る新興国や次世代の新興国がなじむといえそうです。

同時に、できるだけ異なる性質を目指す分散先として、「マイルドな権威主義」と「1人当たりGDPが先進国並み」という特徴を持つ新興国や次世代の新興国が有望であるといえそうです。

民主主義の環境下では、高い自由度・民主度を背景に自由な競争が繰り広げられ、経済が活発化することが期待される半面、自由すぎて感情が噴出し、建設的な議論が損なわれて社会全体が停滞するマイナスの側面もあります(2010年ごろ以降の世界的な自由民主主義指数の低下の一因がここにある)。

その点、こうした民主主義と一線を画す「マイルドな権威主義」は、自由過ぎない環境を維持できるため、過度な大衆化が起きにくく、熾烈(しれつ)な値下げ競争およびそれによるサービスの質の低下が避けられ、主要産業で疲弊が起きにくいメリットがあります。

自由過ぎる大衆の声に耳を傾けるあまり、リーダーが思い切った行動ができなくなる事態が、複数の先進国で発生しています。マイルドな権威主義であれば、こうした事態を避けることもできるでしょう。

また、分散先に「土台」となり得る、安定した収入源、労働人口維持・増加、自国の特徴を生かしたプラスアルファ、などがあるとなおよいでしょう。

この数回で、五つの国のさまざまなデータを確認しながら、大乱世における分散投資の考え方を確認しました。五つのうち、分散先になり得る国と強いて挙げるとすれば、サウジアラビアかもしれません。

近年、脱石油をメインとした経済改革「ビジョン2030」を掲げ、さまざまな自由化がなされた同国は、まさにマイルドな権威主義といえるでしょう。労働人口の維持・増加が期待でき、先進国並みの豊かさを実現している同国は、分散先の有力候補といえるかもしれません。

日本人にとって、なかなかなじみがない国かもしれませんが、フラットな目で観察してみると面白いかもしれません。

図:一人当たり名目GDP 単位:ドル
図:一人当たり名目GDP 単位:ドル
出所:IMF(国際通貨基金)のデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。