[Vol.1899] 「掘りまくれ!」にはいくつもの壁がある

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。73.50ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,771.52ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)春節のため休場。

上海原油(上海国際能源取引中心)春節のため休場。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1813.82ドル(前日比9.32ドル拡大)、円建てで9,105円(前日比85円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(1月28日 15時05分時点 6番限)
13,790円/g
白金 4,685円/g
ゴム 383.8円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,960円/mmBtu(25年4月限 12月19日17時25分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「『掘りまくれ!』にはいくつもの壁がある」
前回は、「原油急落への願望はトランプ氏が打ち砕く」としてトランプ氏が振りまく思惑とOPECプラスの原油生産プランがもたらす原油相場への影響を確認しました。

今回は、「『掘りまくれ!』にはいくつもの壁がある」として、米シェール主要地区の待機井戸の数を確認します。

トランプ氏が大統領選挙の選挙戦のさなか、「Drill Baby Drill(掘って、掘って、掘りまくれ!)」の言葉を繰り返したことや、大統領就任直後、エネルギーに関する国家非常事態を宣言し、過剰な規制を撤廃し、すでに高水準にある米国の石油、ガス生産を最大化する計画を打ち出したことを受け、足元、米国の原油生産量が急増する(インフレが急減速する)、との思惑が先行しています。

1期目のトランプ政権の際、米国の原油生産量は急激な右肩上がりになりませんでした。確かに1期目の最終年となった2020年に、新型コロナの感染拡大が起き、原油需要の急減、供給量の急減が発生した影響が大きかったわけですが、それでも2017~2019年の3年間は、急増していませんでした。2000年代後半からはじまったシェール革命の流れを引き継ぎ、一定のペースの増加傾向を維持するにとどまりました。

なぜ、1期目に米国の原油生産量が急増しなかったのでしょうか。その答えの一つに、以下が挙げられます。このころ、米国の原油生産量のおよそ7割を占めるシェール主要地区のうち、最も生産量が多いパーミアン地区(テキサス州とニューメキシコ州にまたがる地区)で、待機井戸の数が急減していました。

待機井戸とは、掘削を終えたものの、原油生産を開始するまでの最終的な処理を終えていない井戸のことです。つまり、リグ(掘削機)を稼働させて掘ったものの、生産することができない井戸です。

米国の伝統的産業である石油業界になじむ政策を打ち出したトランプ氏の影響を受けて、確かに当時、「掘りまくれ」が起きました。しかし、全ての井戸で原油生産がはじまったわけではありませんでした。

米国の原油生産は、企業の営利活動によって成り立っています。国営の石油会社が管理するOPECに属する産油国と異なります。このため、号令がかかり「掘りまくった」としても、生産活動によって収益を得続ける見通しが立たなければ、最終的な処理を行わない判断をする業者が居たとしても、おかしくはありません。

この点が、1期目で思ったように原油生産量が急増しなかった一因であり、2期目も同様のことが起きる可能性は否定できません。

また、グラフのとおり、バイデン政権下で、待機井戸の数が激減しました。環境配慮を目指した同政権下では、掘削を活発化させずに、原油生産量の増加を維持することが求められました。そこで利用されたのが、トランプ政権1期目で大きく積みあげた待機井戸でした。

トランプ政権2期目は、待機井戸がほとんどない状態から開発を始めなければなりません。「掘りまくった」としても、その井戸で原油生産が始まるとは限らないこと(企業の判断に依存)、待機井戸の積み上げが優先された場合は、生産増加のタイミングが遅くなること、などが懸念されます。「掘りまくれ!」に、いくつも壁がある点に留意が必要です。

図:米シェール主要地区の待機井戸の数 単位:基
図:米シェール主要地区の待機井戸の数 単位:基
出所:EIA(米エネルギー省)のデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。