香港について その3

著者:近藤 雅世
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 香港料理で書き忘れたことがあった。ふかひれスープである。これは中国人との会食では欠かせない一品であり、日本からの顧客にも、いつもふるまっていたが、日本人が好むカニ入りふかひれスープは最も安いメニューである。最高に高いふかひれスープは全体の姿が整ったもので、手のひら以上のサイズとなると一皿2万円近くするものもある。『福臨門』というふかひれで有名な店があるが、今では日本の丸の内の丸ビルにも出店している。香港のガイドブックを見て福臨門本店でふかひれを食べた観光客は、騙されたと思うだろう。数千円の高価なスープが、どんぶりで出てくるからだ。しかし上述のように、ふかひれの姿煮は高いのである。ふかひれは日本の三陸気仙沼沖や、鳥取県、島根県で取れるらしく、江戸時代から日本の主要輸出産品だったと聞く。

 騙されたと言う話で思い出したが、マカオのリスボアホテル近辺にある宝石店で買うエメラルドはお勧めではない。取引先の中小企業の社長が300万円という正札がついていたものを20万円まで値切り倒してきたと得意げに話していたが、おそらく価値はガラス玉に等しいであろう。

 海外は人を騙すことを商売だと心得る人々が多い。だから多くの人が集まる市場でもまず価格を値切ることから始まる。正札通りで買う香港の人はいない。
毎年、旧正月前に香港の町中で一斉にダンピング販売が始まり、デパートを含めてすべての店が毎週価格を引き下げて、最後は投げ売り状態となる。在庫一掃セールであり、この時は、在庫販売用に作った商品の販売ではなく、実際に日頃から飾ってある商品が週ごとに値札が書き換えられる。駐在員は一年でこの時しか買い物をしない。背広やネクタイでも、エルメス等一部超高級店を除き、グッチでもフェラガモでも、一流ブランドの商品がどんどん価格が下がる。

 華僑という集団は、互いに親類であったり、長年取引のある人々の仲間であり、その中に入るのはとても難しいが、ひとたび信頼されればこうした駆け引きの無い世界に入ることが出来る。逆に言えば、それ程人を信用していないのであり、現金以外の掛け売りはほとんど行われないが、華僑やインド、韓国の集団内では信用さえあれば物を購入して転売できるまで支払いを待ってくれたりする。いわゆる貸し借りの世界となる。集団の中と外では商売のやりにくさや、価格は大きく異なる。(以下次号)
 

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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