[Vol.2080] 乖離が生じる二つの要因

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。60.07ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。4,108.56ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。26年01月限は15,255元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年12月限は456.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2511.71ドル(前日比24.16ドル拡大)、円建てで13,022円(前日比503円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月23日 12時18分時点 6番限)
20,349円/g
白金 7,327円/g
ゴム 309.7円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●大阪金先物 日足 単位:円/グラム
大阪金先物 日足 単位:円/グラム
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「乖離が生じる二つの要因」
前回は、「東京証券取引所、注意喚起を行う」として、上場投資信託(1540)に関わるさまざまな価格を、確認しました。

今回は、「乖離が生じる二つの要因」として、上場投資信託(1540)の口数を、確認します。

上場投資信託(1540)の市場価格が基準価額を上回る乖離は、(1)市場が過熱感を帯びて買い注文が殺到すること、(2)基準価額の元となる純資産を増やす追加の「設定」が一時的に追いつかなくなること、などの事象が目立つと発生しやすくなります。

(1)市場が過熱感を帯びて買い注文が殺到すること

前回の図、上場投資信託(1540)に関わるさまざまな価格、で示したとおり、市場価格は市場(東証)の需給などで決まります。市場が過熱感を帯びて買い注文が殺到すると、大きな上昇が発生し、その結果、市場価格が基準価額を上回る乖離が生じ得ます。

例えば、10月20日(月)の市場価格は2万2,525円でした。この価格はおよそ0.937グラム当たりの価格です。この数量は、現在の受益権の1口当たりの貴金属の質量(同ETFの信託契約に基づく、信託報酬や信託費用を考慮した現在の質量)です。

一方、基準価額の算出に用いられる、大阪の先物価格の理論値である指標価格は、同日時点で2万0,682円でした。この指標価格は1グラム当たりです。

10月20日の市場価格を1グラムに直すと、およそ2万4,041円です。これは同日の指標価格よりも3,000円以上高い価格です。市場はこの差額が許容される程、過熱感を帯びていると言えます。

(2)基準価額の元となる純資産を増やす追加の「設定」が一時的に追いつかなくなること

純資産総額は市場の変動を考慮した、同ETFの資産の総額です(この値をその時の口数で除した値が基準価額です)。上場投資信託(1540)の10月20日時点の純資産総額はおよそ1兆2,000億円でした。この値は半年前のおよそ2倍です。

新型コロナショックの発生や、米国の利下げ政策の推進、ウクライナや中東情勢の悪化など、世界の中心であるドル建て金(ゴールド)価格を大きく押し上げるきっかけとなった材料、そして記録的な円安進行を踏まえながら、指標価格の上昇を反映しつつ、純資産総額は大きく増加してきました。

以下は、同ETFの口数の推移です。同ETFは、口数の追加(追加設定。純資産総額の増加要因となる)が行われながら運営されている様子がうかがえます。報道では、同ETFを管理する金融機関は今後も追加設定を継続するとしています。

現在発生している乖離について、「追加設定が追いついていない、だから既存のETFの価格が急騰している」という趣旨の指摘を目にします。

近年、中央銀行の金(ゴールド)保有量が大きく増加するなど、世界の金(ゴールド)の需給が引き締まりやすくなっています。こうしたことも、追加設定のための現物調達が滞る遠因になり得ます。

とはいえ、今のところ、(1)で述べた市場の過熱感による影響は大変に大きいと考えられます。それだけ日本の投資家の「金(ゴールド)を保有したいという気持ち」が強いのだと思います。

市場価格が基準価額を上回る乖離が生じている状態においては、投資家の購入価格が想定よりも高くなってしまいます。乖離が縮小するまでの間、同ETFの売買の際は、十分にご注意いただく必要があります。

図:上場投資信託(1540)の口数 単位:百万口
図:上場投資信託(1540)の口数 単位:百万口
出所:三菱UFJ信託銀行のデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。