金価格は先行き不透明

著者:近藤 雅世
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 東京商品取引所の金価格が上昇トレンドにあることはチャートを見るとわかる。ただ、今後も上昇するかどうかは定かでない。

 仮にイランと米国が戦端を開くなど、新たな地政学的リスクが生じれば金価格は上昇するであろうが、米国とイランは戦争を回避しようとしているようだ。大統領選を控えたトランプ大統領は内政問題に忙しいと思われ、選挙前に戦争を仕掛けることは考え難い。

 World Gold Councilによれば金融引き締めが金融緩和に変わると、その後1~2年金価格は上昇する傾向にあり、またマイナス金利の債権の発行が多くなるとそれに比例して金価格は上昇するという。今後も一朝一夕にはマイナス金利やゼロ金利が上昇する可能性はなさそうであり、こうした金融情勢は金価格にとって下支えとなっている。

 一方、金宝飾品や工業用需要は、世界的に低迷している。

 中国の景気は米中貿易摩擦の影響で悪化しており、2019年の中国の国内総生産(GDP)伸び率は6.1%で、1990年以来29年ぶりの低水準だった。米国以外向けの輸出は増えているというデータもあり、一概には中国経済が低迷しているとは言い難いが、それでも不要不急のぜいたく品である宝飾品を買う人が多いとは思えない。

 またインドでも金の国内価格が高騰しており、庶民は様子見を決め込んでいるようだ。

 更に、一昨年、昨年と金の需要をけん引してきたロシアの政府保有金需要も、ロシアの外貨準備の約2割を金が占めるようになり、かなり外貨準備の多様化は達成された感が強い。今後も買い続けるかもしれないが、これまで程の量ではないだろう。

 残るは金のETFであるが、世界の株式市場に今のところ大きな異変は起きていないため、米中貿易摩擦があった昨年程ETFが買われるかどうかはわからない。金価格の先行きは不透明だと言わざるを得ない。
 

 

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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