マイナスの原油価格に思う

著者:近藤 雅世
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 米国の原油価格が一気に、史上初めてマイナスになったのは、とても興味深いことだった。何より感じたことは、米国の商品先物市場の冷酷なまでの健全性であった。市場価格は需要と供給で決まる。それ以外の何物も価格を動かすことはできない。

 この数週間の米国の石油市場は、① 新型コロナウィルスの蔓延により、② ガソリン需要が急減したことにある。
 

 
 ここから米国先物市場が違うところは、③ ガソリン価格が急落したことだ。原油価格が下がったからガソリン価格が下がったのではなく、ガソリン需要が急減したため、ガソリン先物価格が下落した。
 

 
 その後は連鎖で、ガソリン価格の急落により、④ 石油精製設備の精製マージンであるクラックスプレッドが4月3日には2セント/ガロンまで低下、全く儲からなくなった石油精製設備は当然のように ⑤ 石油精製設備稼働率を引き下げ、
 

 
 ⑥ 原油投入量が減少し、原油需要の減少と共に ⑦ 過剰在庫がガソリンも原油も急増して、どちらも保管場所がほとんどなくなり、原油を手持ちしている人々は保管料がうなぎ上りに増加するなか、一刻でも早く売り払おうと、原油をたたき売る状況が出たというわけであろう。
 

 
 実にダイナミックな、情け容赦もない競争社会である。それが社会経済にとって本当に良いのかどうかはわからないが、一方で日本では、ガソリン価格は石油精製企業いわゆる元売りが決めている。みなさんの周りのガソリンスタンドの価格は市場を反映しているであろうか? 元売り企業は原油の在庫評価が一段と低下し、先物でヘッジしていない石油会社は大赤字となっているので、一刻でも「遅く」ガソリン価格を引き下げたいところだろう。結局損をするのはガソリンの消費者である一般大衆である。

 本来は、石油会社は先物取引を使って価格変動リスクをヘッジするべきであり、そうしていれば在庫の評価損等は無くなる。筆者が勤務していた商社では、筆者の入社当時銅鉱石の鉱山を買収したが、その後銅価格が下落し、鉱石を積んだ船が入港するたびに数十億円の赤字が出た。他の本部の人々からブーイングの非難を受けた。そのため、その後の開発案件は先物取引でヘッジすることが当たり前になった。だから今はそうした在庫の評価損が出ることはない。これは今から50年ほど前の話である。
 

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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