TOPIX(前編)―投資対象として株価指数を考える【1】―

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◆TOPIXとは

 経験を積んだ投資家ならば、今日の株式市場が上がったのか下がったのか、あるいは強かったのか弱かったのか、いわゆる地合いや場味(ばあじ)といったものを知る際、真っ先に見るのが株価指数である点に異論はないと思われます。

 ただし、株式投資をしたことがない人や始めたばかりの人では、その株価指数がどのような構造になっているのか、どのような特徴を持っているのかは説明できないでしょう。ましてや算出に必要なデータが揃っていたとしても、指数を算出できる投資家はほとんどいないはずですし、それは市場関係者であっても同様ではないでしょうか。

 もちろん、株価指数の算出方法を知らなくても株式投資はできます。ただ、せめてその指数がどのような構造になっていて、どのように算出されているのか、あるいは指数を取り巻く環境がどのようになっているのかなどを知っておく必要があると考えます。それによって、株価指数がどのような要因により影響を受けるのか、どうなれば株価指数や一部構成銘柄の株価が動くのかが少しでも想像できるようになります。

 今は先物やオプションといったデリバティブを利用することで株価指数に投資することも可能です。また、デリバティブを利用しなくてもETF (Exchange Traded Fund、上場投資信託)やETN(Exchange Traded Note、上場投資証券)などでも様々な株価指数に投資できるようになりました。この連載では株価指数の構造や寄与度などに触れながら、これらの金融商品を利用する際のポイントについてもみていきたいと思います。

 第1回目は、日本を代表するベンチマークの1つである東証株価指数(Tokyo Stock Price Index、略称TOPIX)について取り上げます。ベンチマークとは「基準」とか、「水準」という意味の測量用語ですが、ここでは資産運用や株式投資の指標として用いる基準のことを指します。

インデックスパフォーマンス
出所:東京証券取引所 TOPIXのファクトシート

 ファクトシート(概要報告書)によりますと、東京証券取引所が算出するTOPIXは「東証市場第一部に上場している内国普通株式の全銘柄を対象とし、浮動株ベースの時価総額加重型で算出」されるとあります。この「浮動株ベースの時価総額加重型」とは一体どういう意味でしょうか。

 まず、「時価総額加重型」ですが、指数算出の際に組み入れ対象となる銘柄の時価総額(=上場株式数×株価)の合計値を使うことを意味しています。TOPIXの組み入れ対象銘柄は「東証市場第一部に上場している内国普通株式の全銘柄」ですから、それらの時価総額の合計値を使うわけであり、簡略化すると以下のような計算式で算出します。

TOPIX = 現在の時価総額の合計値 ÷ 基準日の時価総額の合計値 × 100

 TOPIXの基準日は1968年(昭和43年)1月4日で、当時の時価総額は8兆6020億5695万1154円でした。計算を簡単にするため、ここでは基準日の時価総額を10兆円、現在の総額を200兆円とすると、TOPIXは2000.00ポイント(=200兆円÷10兆円×100)となります。また、この指数は小数点以下第2位まで表示(小数点以下第3位は四捨五入)し、単位はポイントとします。つまりTOPIXとは、基準日の時価総額を100として、今は何倍まで時価総額が膨らんでいるかを示す指数なのです。ここの例では20倍ということになります。
 

◆連続性の維持と浮動株比率


 ただ、時価総額を計算する際に使われる上場株式数が常に一定であるとは限りません。増資や分割などによって増加しますし、減資や併合などによって減少します。そこで、指数に連続性を持たせるため、次のような修正を行います。まず、時価総額の修正額(=上場株式数の増加、または減少×修正に使用する株価)を算出し、新基準の時価総額の合計値を次のように求めます。

新基準の時価総額の合計値 = 旧基準の時価総額の合計値×(現在の時価総額の合計値 ± 修正額)÷ 現在の時価総額の合計値

 例えば株価が 2000 円である銘柄の上場株式数が公募増資のため1億株増加したとします。このときの修正額はプラス2000億円(=1億株×2000円)となり、先ほどの例で言えば新基準時価総額は10.01兆円{=10兆円×(200兆円+2000億円)÷ 200兆円 }と算出されます。その結果、全ての組み入れ対象銘柄の株価が変化しなければ、TOPIXは2000.00ポイント{= (200兆円+2000億円)÷ 10.01兆円 ×100}となり、連続性が維持されます。

 ところで、TOPIXは正確には「時価総額加重型」ではなく、「浮動株ベースの時価総額加重型」であるとファクトシートには記載されていました。この浮動株とは、市場に流通することがほとんど考えにくい株式(固定株という)を除いた上場株式を指します。具体的には、大株主上位 10 位の保有株、自己株式など、役員などの保有株、そのほか東証が適当とみなす事例(長期的または固定的所有とみられる株式など)を固定株として、次のような方法で浮動株比率(FFW:Free Float Weight、浮動株の分布状況に応じた比率)を算出しています。ちなみに日銀がETF買いを通じて間接保有している株式は固定株とみなしているようです。

浮動株比率 = 1 -(固定株式数÷上場株式数)

 実際にTOPIXの算出に使用される時価総額は「上場株式数×株価」ではなく、「上場株式数×浮動株比率×株価」を使います。この浮動株比率について東証は、各銘柄の決算期に応じて年1回の定期見直しを実施するほか、第三者割当増資や優先株転換・新株予約権行使、会社分割、合併・株式交換、公開買付などから、東証独自の判断によって浮動株比率を適宜見直すことがあります。なお、各銘柄の浮動株比率につきましては、東証のホームページ(http://db-ec.jpx.co.jp/category/C700/)から毎月購入することが可能です。

浮動株比率の定期見直し
出所:東京証券取引所の「浮動株比率の算出要領」
 

◆指数構造による影響


 TOPIXはこうした構造により、浮動株ベースの時価総額が大きい業種や銘柄の株価動向に影響を受けやすいことが分かります。

TOPIXの業種ウェイト
出所:東京証券取引所 TOPIXの構成銘柄別ウェイト一覧(2020年11月末現在)より作成

 TOPIXの構成銘柄別ウェイト一覧によると、2020年11月末現在で業種別では電気機器のウェイトが16.96%と最も大きく、次いで情報・通信業、化学、輸送用機器、サービス業という順となっていますので、これら上位の業種の株価動向が指数を左右することになります。

 また、個別銘柄のウェイトを高い順にみてみると、トヨタ自動車 <7203>の3.20%を筆頭に、ソニー <6758>、ソフトバンクグループ <9984>、キーエンス <6861>、任天堂 <7974>と続きます。浮動株ベースの時価総額上位10銘柄でTOPIX全体の約18%を占めており、TOPIXはこれらの銘柄の株価動向に影響を受けることになります。(後編につづく)

構成銘柄(浮動株時価総額上位10社)

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。