TOPIX(後編)―投資対象として株価指数を考える【1】―

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◆TOPIXを売買する

 株価指数は、その変化によって地合いの強弱を測るだけでなく、実際に売買することが可能になっています。もちろん、浮動株ベースの時価総額に応じて構成銘柄を全て同時に売買するという方法でも可能ですが、非常に手間がかかるほか、注文のタイミングや偏りなどから誤差(トラッキング・エラー)が生じやすくなります。

 TOPIX(東証株価指数)の場合は、TOPIX先物やTOPIX先物を10分の1のサイズに小口化したミニTOPIX先物といった先物取引やオプション取引、あるいはETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)などを利用することで、そうした手間や誤差をできるだけ省けます。ただ、中には商いが少なく売買しにくい金融商品もありますので、その点は注意が必要です。

 TOPIXを対象とする先物取引やオプション取引に関しては、下記のURLより「基礎から学ぶ 先物取引初心者入門」で詳細をご参照ください。

https://fu.minkabu.jp/beginner

 また、ETFについては、TOPIXを対象指標とする銘柄は以下の通りとなります。

TOPIXを対象指標とするETF
出所:東京証券取引所 ETF銘柄一覧(2021年1月8日更新)


 下段の表には、参考としてTOPIXを原資産とするレバレッジ型指標やインバース型指標のETFも掲載しました。レバレッジ型指標とは原指標の日々の変動率に一定の倍数を乗じて算出される指標であり、インバース型指標とは原指標の日々の変動率に一定の負の倍数を乗じて算出される指標です。

 こうした算出方法により、これらの指標は前営業日と比較すると当初に決められた変動率は一定に保たれますが、2営業日以上離れた日との比較においては複利効果により、当初に決められた変動率は一定に保たれません。特に、原指数が上昇・下落を相互に繰り返す場合、複利効果により変動率は逓減していくという特性があります。このような場合、投資家は利益を得にくくなりますので注意が必要です。

 加えて、下段のETFは全て先物型です。先物取引において一般的に、限月までの期間が長ければ長いほど将来の価格の不確実性が増すことから時間的価値は大きくなるため、当限月より次限月以降の価格の方が高いコンタンゴ(期先高)状態が多くなります。このとき先物型ETFは、先物取引の次限月以降の限月への乗り換え(ロールオーバー)に伴って損益が発生する場合があります。これらの特性を踏まえ、東証では上段のETFに関して長期投資向き(長期投資に向いている銘柄)としている一方、下段のETFに関しては長期投資向きとしては選定していません。
 

◆指数イベント


 このように先物やオプション、ETFなどを対象とすることでTOPIXへの投資は可能になります。これらの価格はTOPIXと同様にファンダメンタルズなど外部要因から影響を受けるほか、前回に指摘した通り電気機器や情報・通信業などの構成ウェイトが高い業種、あるいはトヨタ自動車 <7203> やソニー <6758> などのウェイトが高い銘柄の株価動向にも影響を受けることになります。

 その一方で、TOPIXがそれらの業種や個別銘柄に影響を与えることがあります。例えば浮動株比率(FFW、Free Float Weight、浮動株の分布状況に応じた比率)の定期見直しなどによって浮動株比率が変更されると、それに応じてインデックス型投信やETFなどのTOPIX型パッシブ(指数の値動きと同様の投資成果を目指す運用)連動資産は銘柄の組み入れ比率を変更します。こうした行事を、マーケットでは「指数イベント」と呼んでいます。

 もちろん、組み入れ比率の変更は東証による浮動株比率の変更だけでなく、各個別銘柄の東証2部市場から1部市場への「1部指定」や東証マザーズ市場・JASDAQ市場から東証1部、2部市場への「市場変更」、あるいは東証1部市場から2部市場への「指定替え」、または「新規上場」や「上場廃止」に加えて増資や減資、自社株消却などによっても生じます。こうした指数イベントによって、対象銘柄には大量の買い需要や売り需要が生じるため、個別銘柄の株価が大きく動くことになります。

 例えば、親会社の日本電信電話 <9432>によるTOB(公開買い付け)で2020年12月25日に上場廃止となったNTTドコモの場合を考えてみましょう。NTTドコモがTOPIXから除外されることにより、TOPIX型パッシブ連動資産はNTTドコモを売却し、他の東証1部市場に上場している全ての銘柄を広く薄く買うことになります。そのため、TOPIX全体の時価総額は変わりませんが、東証1部市場に上場している全ての銘柄には、構成銘柄別ウェイトの変更に伴った買い需要が発生します。

 ある証券会社によりますと、このときのTOPIX型パッシブ連動資産は60兆円程度と試算され、NTTドコモのTOPIXにおける浮動株ベースの時価総額ウェイトが約1.2%でしたので、全体としては約7200億円規模(≒60兆円程度×約1.2%)の買い需要が発生すると推測されました。

 もちろん浮動株ベースの時価総額が高い主力銘柄には大量の買い需要が発生しますが、それらは日々の商いが多いために株価へのインパクトは限定的です。むしろ、浮動株ベースの時価総額に比べて日々の商いが少ない小型株の方が株価へのインパクトは大きいようです。
 

◆新TOPIX


 さて、これまではTOPIXがどのような指数なのか、それによってTOPIXは何に影響を受け、何に影響を与えるのかを見てきました。いま、この日本を代表するベンチマークのTOPIXに大きな変革の波が迫っています。東証は市場改革の一環として、市場区分を現在の4市場から3市場に再編し、また上場基準を見直しなどを行い、2022年4月の移行を目指しています。これに合わせてTOPIXも枠組みの見直しが行われており、同じタイミングで新たなTOPIX指数を算出することを予定しています。

 見直し後のTOPIX算出ルールによると、22年4月1日時点の構成銘柄については、新市場区分施行後の22年4月4日以降も選択市場にかかわらず継続採用されます。ただし、流通株式時価総額100億円未満の銘柄については「段階的ウェイト低減銘柄」とし、22年10月末日から四半期ごとに10段階で構成比率を逓減するとしています。

 この「段階的ウェイト低減銘柄」とは新TOPIXからの除外対象と考えられ、まずは21年7月の第1回判定で流通株式時価総額が100億円以上か否かの確認が行われます。ここで100億円未満に該当した銘柄は22年10月の第2回判定で改善状況の確認が行われ、改善されていない銘柄はウェイトの低減が段階的に実施され、利用者や市場への影響なども考慮して25年1月末までに段階的にTOPIXから除外されます。  加えて、浮動株比率の算定方法も見直しが行われます。いわゆる「政策保有株」が固定株として認定され、政策保有株として保有される会社の浮動株比率が減少することになります。この算出方法の変更に伴う売買インパクトを軽減させるため、東証は22年4月から毎月末に3段階で移行する予定としています。いずれにおいてもウェイト変更に伴う売り需要の発生が考えられ、当該銘柄に対する懸念はすでに出始めているようです。

TOPIX見直しのスケジュール
TOPIX見直しのスケジュール

出所:東京証券取引所 TOPIX算出ルールの見直しの概要

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。