マザーズ指数(後編)―投資対象として株価指数を考える【4】―

◆産業構造の変化を予見


 前編で触れた東証マザーズ指数の構成銘柄の偏りは、業種別ウェートにも表れています。2021年2月現在、業種別ウェートの筆頭セクターである情報・通信業が全体の58.06%と過半数を占め、2番手である医薬品の同15.15%や3番手のサービス業の同11.98%を大きく引き離しています。

 東証株価指数(TOPIX)の業種別ウェートと比較しても、マザーズ指数の偏りがいかに著しいかが分かります。これは特定の業種(情報・通信業)に、大きく成長し、時価総額も大きくなる銘柄が集中していることによるものです。

 そして、そうした業種から「市場第一部へステップアップ」をする銘柄が次々と出てくるわけですから、マザーズ指数の業種別ウェートの偏りは、今後のTOPIX業種別ウェートの変化、ひいては日本の産業構造の変化を予見している、と言えるのではないでしょうか。


出所:東京証券取引所 東京証券取引所日報2021年2月26日より作成


出所:東京証券取引所 TOPIXの構成銘柄別ウェート一覧(2020年12月末現在)より作成

 

◆マザーズ指数の売買


 このようにマザーズ指数は業種の偏りや構造変化が激しい指数であり、ボラティリティ(予想変動率)の高さが特徴となっています。それゆえ、ダイナミックな投資が可能なことが魅力の指数と言える一方で、この指数を売買するにあたっては十分にその特性を理解しておくことが必要になります。


出所:refinitiv、2016年7月19日の終値=1とする

 現在、マザーズ指数を売買するとなると、構成銘柄を構成比率に応じて個別に売買することも可能ですが、売買作業や管理が非常に煩雑になるほか、トラッキングエラーが生じやすく、それなりに投資資金も必要になります。そこで、先物やETF(Exchange Traded Fund:上場投資信託)などを使うと、そうした煩雑性やトラッキングエラーといったマイナス要因は大幅に縮小され、限定的な資金でも投資することが可能になります。

▼「基礎から学ぶ先物取引初心者入門」
https://fu.minkabu.jp/beginner

 株価指数先物については、上記の「基礎から学ぶ先物取引初心者入門」をご参照ください。ここにはマザーズ先物について詳しくは触れられていませんが、株価指数先物を売買する上での基本や注意点は他の株価指数先物とほとんど変わりません。とはいえ、取引対象が異なるわけですから多少の違いはあるため、以下に日経225先物と制度概要を比較した表を掲載しました。

 この表では、マザーズ先物と日経225先物との制度上の違いを太字にしましたが、強いて異なる点と言えば限月取引と呼び値の単位ぐらいでしょうか。マザーズ先物は3月、6月、9月、12月のうち直近5限月を取引しますが、日経225先物の取引する限月は6・12月限が直近の16限月、3・9月限が直近の3限月となります。また、マザーズ先物の呼び値は1ポイント単位ですが、日経225先物の呼び値は1円単位ではなく、10円単位です。


出所:東京証券取引所 東証マザーズ指数先物より作成 太字はマザーズ先物と日経225先物で異なる点

 ちなみに、表の左列上の「立会時間」の項目に「クロージング」とありますが、これはクロージング・オークション取引における注文受付の締め切りと板寄せの時間を示したものです。クロージング・オークション取引とは、寄り付きと同様、引けでも板寄せ方式による約定値段の決定を行う制度です。そのために注文だけを受け付ける時間を設けます。

 日本の株式先物において注文受付時間は、レギュラー・セッション(通常取引)時間終了時刻からクロージングまでの5分間(プレ・クロージングという)としており、この時間は約定を行わず、値が付きません。

 また、表の左列真ん中の「値幅制限」では、原則として四半期ごと(3、6、9、12月)の定期的な見直しが行われる点はマザーズ先物も他の株価指数先物と同じです。現在の呼値の制限値幅などは以下のURLでご確認ください。

▼呼値の制限値幅
https://www.jpx.co.jp/markets/derivatives/price-limits/index.html

 そして、表の左列下の「証拠金」ですが、マザーズ先物では証拠金に対して10倍以上の取引ができます。例えば、21年3月8日から3月12日までのSPANパラメーターで、マザーズ先物のプライス・スキャンレンジは11万円ですから、証拠金11万円を証券会社に預けることで1単位(3月5日の終値1169ポイントで買うと仮定した場合の取引代金は116万9000円、ただし手数料と税金は除く)の取引ができます。

証拠金の約10.6倍の取引が可能となりますので、ダイナミックな投資ができます。その一方で、相場の変動次第では証拠金を追加で差し入れる必要が生じたり、証拠金以上の損失が発生する場合もあります。取引の際はこの点に十分ご注意ください。

証拠金計算に用いるSPANパラメーターは、原則として週次で見直されます。最新のデータは以下のURLから、SPAN関連情報のSPANパラメーターよりダウンロードして確認することができます。

▼JSCC(日本証券クリアリング機構)
https://www.jpx.co.jp/jscc/

 加えて、マザーズ指数に投資するもう一つの方法としてETFがあります。具体的には、東証マザーズETF <2516> [東証E]が対象となりますが、このETFは先物型です。先物の取引では、決済期日が長い限月が短い限月よりも価格が高い状態(コンタンゴ)の場合、次限月以降の限月への乗り換え(ロールオーバー)を繰り返すことで、当該ETFが継続的に減価していくリスクがあります。しかし、マザーズ指数とマザーズETFの価格推移を比較すると、ほぼ似たような値動きになっているためなのでしょうか、東京証券取引所(東証)はこのETFを「長期投資向け」に選定しています。


出所:refinitiv

 

◆マザーズ指数の将来


 「投資対象として株価指数を考える【1】 TOPIX(後編)」でも触れた通り、東証は22年4月に市場区分の再編を予定しています。そのため、個人投資家も参加可能な市場第一部、市場第二部、ジャスダック、マザーズの4市場は、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編され、企業側が特に選択しなければジャスダックのグロース銘柄とマザーズ銘柄は全てグロース市場に移行します。

 グロース市場において予定されている上場審査基準や上場維持基準は、流通時価総額のハードルがやや上がりますが、上場10年後に上場廃止基準を見直す制度がある点など、概ねマザーズ市場の上場廃止基準とよく似ています。そのため、事実上マザーズ市場の名称変更に近いと言えるでしょう。この再編によりマザーズ市場という呼称はなくなりますが、マザーズ指数はグロース指数といった名称に変更となる程度で、その特性は再編後も大きく変わらないと考えられます。


出所:東京証券取引所の各種資料より作成
 

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。