NYダウ(前編)―投資対象として株価指数を考える【6】―

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◆NYダウとは


 第6回目ではNYダウについて取り上げます。この指数の正式名称は「ダウ・ジョーンズ工業株価平均(Dow Jones Industrial Average)」ですが、一般にはNYダウ(ニューヨークダウ)、ダウ工業株30種平均などの名称で親しまれている米国の有名な株価指数です。


出所:refinitiv

 NYダウは、米国の代表的な株価指数であるS&P 500 の構成銘柄のうち最大手企業である30銘柄で構成される株価平均型指数です。ちなみにS&P500は、米国の証券取引所で取引されている米国株のうち、大型株500銘柄で構成される浮動株調整後時価総額加重平均型指数です。

 NYダウの計算方法はダウ式と呼ばれる株価を全て足し合わせて除数で割るという方法を採用しています。単位はドルです。日経平均株価の計算方法に似ているのは、日本経済新聞社がダウ式平均を考案したダウ・ジョーンズ社から指数算出の権利を買い取り、日経平均株価を算出していたからです(本シリーズの第2回目「日経平均株価(前編)」の項目でご紹介したように、現在の日経平均株価では、構成銘柄の採用株価をそのまま用いるのではなく、日本独自の「みなし額面」で換算した株価を使っています)。

▼NYダウ = 構成銘柄の株価合計 ÷ 除数

 なお、除数については第2回目の日経平均株価(前編)で解説していますので、そちらをご参照ください。ただし、NYダウは日経平均株価のように「みなし額面」による株価は採用していませんので、ご注意ください。

▼日経平均株価(前編)―投資対象として株価指数を考える【2】
https://fu.minkabu.jp/column/814

 NYダウは元々、ダウ・ジョーンズ社が1896年5月26日から算出しており、当初は12銘柄でしたが、1928年から現在の30銘柄となりました。現在はS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが算出しています。
 

◆採用銘柄


 2021年3月26日現在、NYダウの採用銘柄は以下の表の通りです。以前の採用銘柄は米ニューヨーク証券取引所に上場している銘柄のみでしたが、1999年にインテルとマイクロソフトを採用して以来、ナスダック上場銘柄からも採用されるようになりました。

 しかし、NYダウに輸送産業グループ及び公共セクターの銘柄は入っていません。これらのグループやセクターが除かれているのは、ダウ平均株価には「ダウ工業株30種平均」のほかに、「ダウ輸送株20種平均」、「ダウ公共株15種平均」の計3種類があるためです。


出所:SPDR ダウ工業株平均 ETFより作成(2021年3月23日現在)

 銘柄の選定について、NYダウには定量的なスクリーニングのルールが存在しません。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの代表者3名と、ウォール・ストリート・ジャーナルの代表者2名から構成される株価平均委員会(Average Committee)により決定されます。

 採用銘柄は主として、企業の評判が高く、持続的な成長を達成し、多くの投資家が高い関心を示すものに限られているようです。また、採用企業は米国で設立され、米国に本店を構えている必要があり、さらに売上高の大部分が米国からもたらされていることを必要としています。

 もちろん、指数内で適切なセクター配分を維持することも考慮されています。指数の構成銘柄の変更は定期的に実施されるわけでなく、必要に応じて非公開で行われ、構成銘柄が変更される場合には通常、変更が行われる予定日の1~5日前に発表されることになっています。

 また、委員会は 12カ月間に少なくとも 1回、算出要綱の調査・検討を行うことにより、指数が引き続き連続性維持などの目標を達成し得るよう、データや算出要綱の有効性を確保します。指数を算出するS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、場合によっては外部当事者にコメントを要請する場合もあるとのことです。
 

◆日経平均株価との違い


 NYダウの算出方法は日経平均株価と微妙に異なっているものの、採用銘柄の時価総額加重平均ではなく、株価を合計して除数で割る、という意味では非常に似ている指数と言えるでしょう。


出所:refinitiv

 それでは、業種や構成銘柄のウェートの偏りはどうでしょうか。NYダウは情報技術セクターが全体の2割以上と一番大きなウェートを占めており、続いて資本財・サービス(約17%)、ヘルスケア(約17%)となっています。


出所:SPDRダウ工業株平均 ETFより作成(2021年3月23日現在)

 一方、日経平均株価の場合は、技術セクターが全体の5割弱と一番大きなウェートを占め、消費(約26%)、素材(約13%)が続きます。日米でセクター分類が異なるために単純な比較は難しいのですが、日経平均株価に比べてNYダウは業種の偏りが少ないように感じられます。


出所:「日経平均プロファイル」ウェート一覧(CSV)より作成(2021年1月末現在)

 こうした違いは業種別ウェートだけでなく、構成銘柄ウェートにも表れています。NYダウの場合、ヘルスケアセクターのユナイテッドヘルス・グループの7.48%を筆頭に、金融セクターのゴールドマン・サックス・グループが6.67%、一般消費財・サービスセクターのホームデポが5.99%となっています。


出所:SPDR ダウ工業株平均 ETFより作成(2021年3月23日現在)

 一方、日経平均株価の場合、消費セクターのファーストリテイリングの11.69%を筆頭に、技術セクターのソフトバンクグループが6.33%、同じく技術セクターの東京エレクトロンが5.18%となっています。


出所:「日経平均プロファイル」ウェート一覧(CSV)より作成(2021年1月末現在)

 日経平均株価の筆頭であるファーストリテイリングは飛び抜けていますが、それ以降のウェートは大きく変わらず、むしろNYダウの方が高いように見えます。また、上位10銘柄の合計ウェートもNYダウは5割強、日経平均株価は4割強となっています。

 しかし、両者の構成銘柄数が極端に違うことを考慮すると、日経平均株価がいかに偏っているかが分かります。NYダウの場合は30銘柄の中でのウェートであり、1銘柄当たりの平均ウェートは3.33%(≒100%÷30銘柄)となります。一方、日経平均株価の場合は225銘柄の中のウェートですので、1銘柄当たりの平均ウェートは0.44%(≒100%÷225銘柄)とNYダウの構成銘柄に比べて極めて低い水準となるからです。 (後編につづく)

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。