[Vol.1022] 値動きに一定の説明がつく=「総売り」ではない

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。73.25ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,782.00ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。21年09月限は12,935元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年08月限は466.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで696.4ドル(前日比10.8ドル縮小)、円建てで2,468円(前日比6円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月23日 16時56分頃 先限)
6,350円/g 白金 3,882円/g ゴム-円/kg とうもろこし 33,820円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「値動きに一定の説明がつく=「総売り」ではない」

前回は、「ゲタを足かせにしたFOMC」として、先週のFOMC後の会見後のコモディティ市場全体の状況について書きました。

今回は、「値動きに一定の説明がつく=「総売り」ではない」として、先週のFOMC後のコモディティ市場の値動きの特徴について書きます。

以下の図は、FOMC後の各種銘柄の動向とそれらの銘柄の特徴を示しています。変動率などの詳細は以前の「テーパリングは、「徐々に細くすること」の意」で述べています。

上昇した「ドル指数」「バルチック海運指数」「鉄鉱石」「温室効果ガス排出権」は、図のとおり、「ドル」「物流動向の指標」「鉄需要の目安」「環境関連」と言い換えられます。「ドル」は、利上げやテーパリング議論で上昇しやすい傾向があります。足元のドル指数の上昇はまさに、先週のFOMCを受けた値動きと言えます。

「物流動向の指標」「鉄需要の目安」という実体経済の一部を示す指標の上昇からは、景気が上向く兆しが見え始めていること、「環境関連」銘柄の上昇からは、他の銘柄が下落していても、世界共通の重要な課題に関わる銘柄が上昇し得ることがわかります。

先週のFOMCを受け、多数の銘柄が下落しましたが、そうした状況であっても実体経済の一部を示す指標や環境関連の銘柄は上昇したわけです。FOMC後の現在が、全てが売られる「総悲観」あるいは「総売り」状態ではなかったことがわかります。

「下落した」日米欧中の主要株価指数、原油、トウモロコシや大豆といった穀物ですが、これらの値動きには明確な根拠があります。

FOMCを受けて景気回復鈍化懸念が生じたことや(懸念であり実際に鈍化しているわけではない)、FOMCを受けて目立ったドル高によって、国際商品市況において指標となるドルで取引されている銘柄に、他の通貨建てに比べた割高感が生じたことなどが下落の一因とみられます。

また、FOMC以外の個別の要因もあります。6月18日(金)に行われたイランの大統領選挙で、反米で保守強硬派のライシ師が穏健派のロウハニ氏に圧勝しました。この点は、原油市場に上昇と下落、両方の圧力をかけたと考えられます。

ライシ師がイラン核合意を順守して核開発を止め、米国が同合意に復帰してイランの原油供給量が増大するという下落圧力観測と、ライシ師が反米姿勢を先鋭化させ国際協調路線から逸れ、核開発をさらに進めて中東地域の情勢が一段と悪化し、原油の供給懸念が浮上するという上昇圧力観測です。

これ以外にも、6月16日(水)に公表された週次の石油統計(米エネルギー情報局公表)で、原油在庫の大幅減少が確認されたことは上昇圧力をかけたと考えられます。振り返れば、FOMCという目立つイベントはあったものの、原油的には個別に大きな材料があったため、FOMC起因の下落圧力は受けたものの、個別の上昇圧力がそれを一部相殺した、と考えられます。

穀物は先週、生育中の米国の主要生産地に適度な降雨が見込まれている、との報道をきっかけに、生育が進み、生産量が増えるとの思惑から下落する時間帯がありました。この穀物独自の下落圧力はFOMC起因の下落圧力とともに、穀物価格を下落させたとみられます。穀物においても、FOMCだけが材料ではなかったわけです。

「特に下落した」食用油関連銘柄である菜種や大豆油、住宅建材などに用いられる木材、非鉄金属の銅、イーサリアムやビットコインといった暗号資産、金、銀、プラチナ、パラジウムなどの貴金属もそれぞれ、下落圧力をかける固有の材料がありました。

原油と穀物と同様、景気回復鈍化懸念やドル高時に下落しやすい特徴があることのほか、食用油、住宅建材、非鉄金属はもともと記録的な高値圏にあり調整しやすい状況にあったこと、非鉄金属においては6月16日(水)に中国が国家備蓄を放出すると報じ、需給のゆるみが懸念されたこと、暗号資産と貴金属は「お金」の側面があるため(濃淡あり)、特にドル高時に下落しやすい傾向があること、などです。

「上昇」した銘柄、「下落」した銘柄、「特に下落」した銘柄、いずれもその値動きについて一定の説明がつきます。そして個別の材料が複数の銘柄で存在したことを考慮すれば、FOMCだけが下落要因ではなかった、FOMCが多くの銘柄を一様に下落させたわけではない、つまり、今回のFOMCで「総売り」は発生していない、と言えると思います。

図:FOMC直後の主要銘柄の動向および銘柄の特徴


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。