[Vol.1096] スタグフレーションの議論は時期尚早

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。80.34ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,761.85ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年01月限は14,430元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年12月限は521.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで753.85ドル(前日比2.6ドル拡大)、円建てで2,783円(前日比47円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月13日 12時17分頃 6番限)
6,407円/g 白金 3,624円/g
ゴム 224.0円/kg とうもろこし 37,420円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「スタグフレーションの議論は時期尚早」

前回は、「「パジャマ トレーダー」の3つのメリット」として、日本時間の夜に取引をする日本人個人投資家「パジャマ トレーダー」(筆者命名)の利点を述べました。

今回は、「スタグフレーションの議論は時期尚早」として、現在さまざまなメディアで報じられている、スタグフレーションについて、筆者の考えを述べます。

ここ最近、さまざまなメディアで「スタグフレーション」という言葉を目にします。スタグフレーションとは、スタグネーション(Stagnation)」と「インフレーション(Iinflation)、すなわち、「景気停滞時の物価上昇」を意味する合成語です。

物価上昇は、さまざまな種類の国際的なコモディティ(商品)銘柄の価格が上昇しているため、われわれの身近なところで、目に見えて、肌で、実感できます。

ガソリンや軽油(原油由来の燃料)、マヨネーズ(原油由来のプラスチック容器・食用油)、マーガリン(食用油)、一部の食肉(エサとなる穀物)などが、その例です。目先、冬の暖房シーズンを前に、電力(発電用の天然ガス)価格の上昇も懸念されます。

「物価上昇」は需要がけん引する「デマンド・プル型」と、原料価格が上昇することで起きる「コスト・プッシュ型」があります。足元、コロナからの景気回復過程にあること、異常気象や政策的な面で供給が増えにくい商品が複数あることから、現在の物価高は、両方の型によって起きていると言えます。

では、スタグフレーションを構成するもう一つの要素である、「景気停滞」はどうでしょうか。

コロナ禍でもあり、肌感覚的には、万人が景気回復を実感しているとは、なかなか言えないでしょう。しかし、株価指数の値動きを見ると、別の側面も見えてきます。

以下のとおり、米国の主要株価指数の一つであるNYダウの上昇率は、金(ゴールド)や原油よりも、大きいことがわかります。景気回復を実感できている人とそうでない人の両方が存在する中、景気の先行指標とされる株価の動向は、景気停滞を示していません。

このように考えれば、足元が、スタグフレーションなのかそうでないのかの議論は、しばらく各種統計や株価指数の動向を見た上で、冷静に判断されることになるでしょう。正直なところ、株価が急落していない以上、現在の状況にスタグフレーションを冠することは、難しいのではないでしょうか。

図:主要株価指数とコモディティの価格推移(年平均)


出所:BP、ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。