最近の金価格を見ると少し違和感を感じる

著者:近藤 雅世
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 最近の金価格を見ると少し違和感を感じる。確かに米中が貿易戦争を行えばこれまで長く続いてきた世界の景気は中だるみになるだろう。また2009年3月以来ほぼ一直線で上昇してきたダウ平均株価はそろそろ調整安があってもおかしくはないと思う。実際昨年末のように大きなスパイクを描いて急落したこともあったが、その後ふたたび蘇っている。だからダウ平均株価が高すぎるという見方にもなるだろうが、果たして急落するかどうかは定かではない。

 これまで金価格は2008年のリーマンショック以後、欧州債務危機等世界の金融機関の再編をもたらす大きな危機に対して上昇してきた。今回6月に1400ドルを超え、8月に1500ドルを超えた金価格の急騰は、それ程の危機を背景に持っていないと思う。足元の景気は、好景気ではないとはいえ、不況の予感はどこにもない。中国が7%のGDP成長率が達成できないというのは、それでも6%なら問題ないではないかとの見方もある。中国の不良債権が金融機関を棄損し、連鎖的な倒産劇が起きそうならともかく、中国政府や人民銀行は金融機関に対して手厚い保護策を講じており、そうしたまさかのハプニングは起きそうにもない。米中貿易摩擦とはいえ、中国は依然として大きな貿易黒字を計上し、米国向けの輸出を欧州やアジア諸国への輸出でカバーしている。人民元安も中国企業の輸出手取りを増やしているため、当面中国で貿易摩擦を原因とした危機が発生するという噂は聞かれない。

 金価格が上昇しても特に不満はないが、根拠のない上昇は不安を覚える。政府保有金の買いが増えているからといってこんなに急騰するほどは買っていない。むしろインドや中国で現地通貨建ての金価格が庶民の手の届かない高値になればモンスーンで降雨が少ないかもしれないインドの農民や高値の宝飾品を今買う必要が無い中国人民の貴金属購入熱はしばらく冷やされるかもしれない。日本でも宝飾品店に客が殺到している図はここ数年お目にかかっていない。むしろ手持ちの金を売却に行く人の方が多いだろう。金価格が需要と供給で決まるとするなら、株式投資から一時的に引き揚げた資金が金を買うとしても、継続的な買いにつながる資金が続々と現れるとは思えない。どうも金価格は反落するような気がする。

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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