[Vol.1107] 変化後の「脱炭素」の意味

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。81.89ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,804.45ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年01月限は15,170元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年12月限は517.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで784.15ドル(前日比4.65ドル拡大)、円建てで2,867円(前日比9円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(10月28日 16時46分頃 6番限)

6,575円/g 白金 3,708円/g ゴム 233.3円/kg とうもろこし-円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「変化後の「脱炭素」の意味」

前回は、「21年夏、脱炭素とインフレの意味が変わった」として、前々回書いた、今年の夏に発生した世界的な大きな変化によって、脱炭素とインフレの意味が変わったことについて、書きました。

今回は、「変化後の「脱炭素」の意味」として、変化後の「脱炭素」の意味について、書きます。

前々回、2021年夏、米国、中国、欧州など、そしてOPECプラスで、さまざまな大きな変化があったと述べました。こうした主要な国・地域における大きな変化は、市場を取り巻く環境を大きく変えるきっかけとなったと、考えられます。

こうした変化は「脱炭素」の意味を変えたと、考えられます。「脱炭素」は、人類の経済活動起因で排出される温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化の進行を鈍化させるための人類共通の、超長期的な取り組み、という本質的な意味に変わりはありませんが、夏以降、「インフレやリスク拡大の温床」、「覇権争いの具」、などの意味が認識されるようになったと、筆者はみています。

往々にして、市場は景気が良い時(あるいは良くなる期待がある時)は、さまざまな事象を良いように解釈する(良いところ取りをする)傾向があります。しかし、悪くなる兆候が見られると、負のスパイラルに陥ったかのように、(同じ事象でも)悪いように解釈し始めることがあります。

市場が、これまで表に出ることがなかった「脱炭素」の負の意味を認識するようになったのは、「2021年夏」に起きた、世界経済のけん引役が定まらなくなったことや、OPECプラスが態度を硬化させたことなどの、大きな負の変化が、きっかけだったと考えられます。

以下のように、「2021年夏の変化」によって、負の要素が認識されるようになった「脱炭素」は、「原油価格高」「金属価格高」、それらによる「インフレ(コスト・プッシュ型)」、さらには「覇権争い激化」「生き残れない企業増加」などのきっかけであり、「各種リスクの拡大」の要因とみられます。長期的には負の要素は解消する可能性はあるものの、少なくとも足元は、このような環境にあると考えられます。

「脱炭素」は、地球温暖化を食い止めるための、人類全員の共通テーマです。不可逆的(後戻りできない)テーマであるがゆえに、そのテーマが醸し出すさまざまな材料もまた(良しあし関係なく)、不可逆的といえます。

このため、しばらくは、何らかの強い事象が発生して負の面が認識されなくなるまで、「脱炭素」の「負の面」が、各種市場を動かす一因であり続ける可能性があります。「脱炭素」の「負の面」が認識され続けた場合、金(ゴールド)、銅、原油相場はどのように推移すると考えられるでしょうか。

次回以降、「負の面」が意識された「脱炭素」が与え得る、金(ゴールド)相場への影響について述べます。

図:「脱炭素」の意味の変化

出所:筆者作成

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。