[Vol.1217] 「鎖国」できるロシアの狙いは混乱の長期化?

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。103.36ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,977.20ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年09月限は13,465元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年05月限は668.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで986.3ドル(前日比10.6ドル縮小)、円建てで4,013円(前日比39円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月14日 11時53分頃 6番限)
7,956円/g
白金 3,943円/g
ゴム 263.8円/kg
とうもろこし 54,650円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「鎖国」できるロシアの狙いは混乱の長期化?」

前回は、「「備蓄放出順守率」議論噴出の可能性あり」として、備蓄放出についての留意点5つのうち、前々回詳細を述べなかった3つについて述べました。

今回は、「「鎖国」できるロシアの狙いは混乱の長期化?」として、ロシアという国の豊かさや諸品目の自給率について、書きます。

しばしば、その国が「豊かかどうか?」をはかるモノサシに、「一人あたりGDP」が使われます。この値の元になるGDP(国内総生産:Gross Domestic Product)は、一定期間内に国内で生み出されたモノやサービスの総額で、国の経済活動の活況の度合いを示すモノサシの一つです。

GDPを人口で割った「一人あたりGDP」は、その国の国民一人が、モノやサービスをどれだけ生み出したか、裏を返せばどれだけ消費したかの目安となります。国民一人あたりの生産と消費の規模の大きさは、その国の「豊かさ」のモノサシと言えます。

OECD加盟国(現在38カ国)の一人あたりGDPは、平均で3万8,780ドルです(IMFのデータより 2020年)。米国は約6万3,000ドル、日本は約4万ドルです。「1万ドル超え」が、先進国入りの登竜門のように見えます。

その意味では、足元の水準でいえば、ロシアは先進国入りしたかしていないか、という規模感と言えます(原油相場が高騰していた2013年でも1万6,000ドル前後)。ロシアは「豊か?」と問われれば、「先進国ほどではない」と回答することになるでしょう。

また、以下の「一人あたり原油輸入量」「一人あたり小麦輸入量」に注目します。ロシアは「資源を持つ国」です。このため、原油や小麦の「一人あたりの輸入依存量」は、先進国に比べて格段に少ないことがわかります。

先述のとおり、ロシアの豊かさは「先進国ほどでない」ため、過剰なエネルギー消費はなされていません。また、エネルギーも食糧も、他国に依存していません(自給自足できる)。これらのことは、実はロシアの強みとも言えると筆者はみています。

西側諸国の制裁により、銀行決済システムから主要銀行が排除されたり、エネルギーの不買が本格化したりしている中、他国に対して貿易の際にルーブル建てで決済するよう求めるなど、ロシアは他国との交易が途絶えようとしています。

つまり日に日に、「鎖国」状態になりつつあるわけです。鎖国することで、周辺国の混乱をある意味傍観できます。インフレにあえぎ、エネルギーや食糧の需給に強い不安が広がる世界を外界とし、自らは「鎖国」状態で時が過ぎるのを待ちます。

こうした状態が長期化すればするほど、西側諸国は備蓄放出が時間的な限界を迎えたり、インフレが長期化して経済や政治的面で問題が大きくなったりする可能性があります(米国の中間選挙にも影響する可能性あり)。

ロシアが自らの利点を生かして「鎖国」をし、時間を経過させ、外界の混乱を拡大しようとしている可能性は、筆者はゼロではないと、考えています。

図:一人あたりの原油と小麦の輸入量


出所:BPおよびUSDA(米農務省)のデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。