[Vol.1216] 「備蓄放出順守率」議論噴出の可能性あり

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。101.00ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ウクライナ情勢をめぐる懸念増幅などで。1,975.40ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年09月限は13,345元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年05月限は650.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで991.2ドル(前日比12.5ドル縮小)、円建てで4,046円(前日比6円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月13日 17時57分頃 6番限)
7,995円/g
白金 3,949円/g
ゴム 259.8円/kg
とうもろこし 54,460円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「備蓄放出順守率」議論噴出の可能性あり」

前回は、「備蓄放出が原油価格下落の決定打になれない理由」として、備蓄放出についての留意点を述べました。

今回は、「「備蓄放出順守率」議論噴出の可能性あり」として、備蓄放出についての留意点5つのうち、前回詳細を述べなかった3つについて述べます。

OECD(経済協力開発機構)の石油の商業在庫は、足元、逆オイルショック(2014~2015年に発生した原油相場の暴落)前の水準まで減少し、過剰分の取り崩しが完了しています。今回の国家備蓄放出が量的に限度に達した後の、次の手は限られている(商業在庫の放出が難しい)ことが、現時点で判明している点に、留意が必要です。

BPのデータをもとに推計すると、ロシアは2020年に、原油を日量527万バレル、石油製品を日量216万バレル、輸出しました。広義の「石油」(原油+石油製品)で言えば、合計日量743万バレルです。(石油製品は原油と同じ計算式で推計)

報道では「石油」の備蓄放出とされるケースが多く(IEAが放出対象を「oil」としているため)、ロシアの供給減少分として最大限カバーしなくてはならない量が、200万バレル超でよいのか、500万バレル超なのか、700万バレル超でなければならないのか、曖昧です。

原油であればどの種類か(軽質油? 重質油? 天然ガス液は? コンデンセートは?)、製品であればどの製品か(ガソリン? 暖房油? ジェット燃料? 国ごとに使用できるガソリンの基準は異なる)も、まだ不明です。

加えて、どの地域で不足しているのか?(放出先はどこか?)、輸送コストは誰が負担するのか?などの詳細も、まだ不明です。どれだけ、何の備蓄を、どこにどのように放出するのか、まだわかっていない点が複数あります。

国ごとに放出量を決めたことは、いずれ「備蓄放出順守率(放出量を守っているorいない)」の議論を噴出させる可能性があります。また、国ごとの貢献度(≒備蓄放出による痛みの度合い)に差が生じていることも、「不平等」を生じさせる要因になりかねません。

OPECプラスのように特定の国が非順守国の肩代わりをする(してしまう)状況も想定され、ニュースで「備蓄放出に足並みの乱れ」などという見出しが出た場合、かえって原油相場を押し上げる要因になりかねません。

前回の2つと合わせ、合計5つの留意点を確認してわかるとおり、備蓄放出については、「取り急ぎ、放出しよう」という掛け声がかかった状態に過ぎず、まだまだ分からないことがあるわけです。

今後、実施内容の詳細と実態(データ)を確認することになるわけですが、それらの内容によっては、必ずしも備蓄放出が原油相場を下落させるわけではない(状況によっては上昇要因になりうる)点に、注意が必要です。

図:OECD石油商業在庫 単位:百万バレル/日量


出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。